2007年4月4日付け
【エザーメ誌八八九号】日産、ルノーの社長に抜擢されたブラジル人のカルロス・ゴーン氏は、事実と数的データによってのみ動く人間機関車といわれる。一度決断し実行したことが、多くの批判や非難を浴び全世界を敵に回そうとも意に介するなという。日産、ルノー両社は二〇〇六年、売上が一三五〇億ドル、営業益は八〇億ドルとなった。一社の実績と見るなら、従業員三十万人を抱える世界第四位の自動車メーカーとなる。
ゴーン社長が決断するには、五つの要因を求める。一、根幹と末葉に分け、末葉は脇へ寄せる。報告は十五分以内に行わせ、プロジェクトの根幹だけを言わせる。協議は不要。二、ルールを重んじる。日産は日産、ルノーはルノーであって、日産の成功をルノーの参考にしない。両社は本質的に別物なのだ。
三、決断に戦略性を。決定は社長責任で。日々の仕事で起きる業務上の問題は管理職の担当として任せ、社長はタッチしない。四、一度に一歩づつ前進。複雑な問題は小さく区分する。特に見解の分かれる問題は細分化する。五、データや情報は、他業種も含め広範囲で多数の専門家の意見を求める。
同社長が特に力を入れているのは、新車開発だ。研究所に週一回、必ず予告なしで訪問。研究員は突然訪れる社長訪問のためつねに緊張している。ゴーン社長は研究員に、早口で詳細に及ぶ質問をする。社長質問は、社員の抜擢や昇進にもつながる。前任者は年に一、二回、訪ねただけである。
社長の社内巡回は再々行われ、ルノーの機動性改善を研究している。ゴーン社長の即断即決方式は、ルノーの組織に喝を入れ、職場の雰囲気が変わった。社長は、職級に関係なく社長との直接会話が無礼講でできるチャンスをつくる。
また同社長は、いつも四つの問題意識を持っている。最も効果のある投資計画と原価管理のコントロール、時代が求める新車種、適材適所の人事管理。ゴーン社長は工学部で組織工学を専攻した。情報分析は、つねに事実に基づく科学的根拠を求める。
同社長は、一日二〇回しか電話に応対しない。通話内容は秘書が事前チェックする。連絡会議は毎日十五回で各回十五分以内に終らせる。肝心なことだけ話せというが、二〇%は下らないことが混じるという。日産とルノーの間を自家用機で隔週往来。
日産ルノー二社の管理には、軍隊の作戦要務令を使う。仕事の中に埋もれず、大局高所からものを見ることができる。鹿を追っても山を見ることを忘れない。会社経営の雑事は管理職に、社長は会社の行くべき方向を考える。
社長命令は九〇%実行しても、一〇%の手抜きをしたら何もしていないのと同じという。手抜きについては担当者に責任を採らせる。責任追及は担当者を死に追いやることもある。ルノーでは〇六年初め、三人が自殺した。
フランス労組連盟は、ルノーの要求水準が厳しすぎると抗議した。ゴーン社長に対する非難の嵐がフランス全土で巻き上がった。これはルノーの構造改革であって、生き残るために避けて通れない関門であるとゴーン社長は譲歩しなかった。フランスは資本主義に共鳴しない国らしい。
日産では二万一〇〇〇人のクビを切り、コスト・キラーの異名をもらった。漫画では英雄になった。日産では構造改革を成し遂げたが、ルノーでは激しい抵抗に遭った。日産にできても、ルノーには出来ないらしい。赤字経営のブラジル・ルノーでも、遠からず痛みを伴う構造改革を実行せねばならない。
フランス人は、グロバリゼーションに馴染めないようだ。ナポレオン時代のフランスは残念だがもうない。ルノーに資金難はなかったが、甘えとのろさがある。ルノーを世界のルノーにするためには、フランス人従業員の性根を叩き直さねばならない。そのために数人の死人が出ても、やむを得ないという。