2007年4月4日付け
「ネクタイを買わないか?」。とある夜、リベルダーデのバールでボケッとしていると、その老人は話しかけてきた。
背広の上下に短く刈った白髪、手にはがっちりとしたトランク。商人というより勤め人の会社帰りという出で立ちだが、返事をするとトランクからネクタイの束を取り出し熱心に勧めてくる。
見たところ六十代。別れの言葉がイタリア語だったから、イタリア移民の一世か、二世か。
こちらに断られ、あちこちのテーブルで同じように声をかけるが、どうも一本も売れない様子。それでも落ち込むでもなく、他の客と雑談して立ち去った。今でもこういう商いを生業にしている人いるのだな、と新鮮な気分になった。
五十年代、六十年代、スーツにネクタイでなければ映画館に入れなかったという。そんな華やかなりし時代の残影を見たような気もした。(ま)