歴史に育まれた道徳の退廃=後を絶たぬ凶悪犯罪=芽を摘み取らずにまん延=ボゴタの成功例に倣え
2007年3月28日付け
【ヴェージャ誌一九九六号】著書「放たれた猛獣」や「毎日の糧、道徳」を書いた哲学者のピーター・シンガー氏が、ブラジルで起きている凶悪犯罪は長い歴史に育まれた道徳の退廃であるという。初めは誰も気づかない程度の小さなことであった。それが後に憂慮すべき事であっても誰も警告せず、現在は社会全体を病み尽すものに至ったという。人間は自分の中に取り入れたものが、有益か有害か再評価すべきだ。有害なものを取り入れると、自分自身が苦しむばかりでなく社会をも害する。幼児の惨殺事件は、ブラジル国民に社会道徳の見直しを迫っていると警告した。
次は同氏によるブラジル社会と犯罪の洞察である。
【幼児惨殺事件が訴えるもの】これは、道徳不在の社会が引き起こす精神異常者や殺人鬼の行為である。最初は精神の正常な者が罪を犯した段階で、最悪の危険信号が点じられたと見るべきであった。それを社会全員が放置したので、ブラジル社会自身が犯罪防止の制御機能を失った。
だから善悪を判断出来ない人間たちが生み出されたのだ。犯人の行動に酌量の余地はないが、被害者の親は、子供の生命に代わって我が子を死守できなかったのか。報道だけでは不可解な部分がある。
【生来備わった道徳と学ぶ道徳】家族愛や親子愛、一族の秩序は動物でも持っている。しかし、文化と社会によって育まれる道徳もある。ブラジルでは、後者の道徳が屈折している。ここに至るには長いブラジルの歴史があり、軌道修正をされることがなかった。これから、ブラジルに新しい道徳問題がさらに提起される。例えば妊娠中絶や安楽死、死刑、受精卵の扱い、性の乱れなど。
【道徳観の喪失がもたらすもの】道徳観は、日常の行動の中で無意識のうちに働くものである。意識した道徳観は偽善だ。道徳観不足の初期は、隣人との口論や脱税、違法行為、交通違反など小さなもの。その悪習は伝染性があり、まん延すると道徳の欠落となり、正直者はバカを見る道徳不在の無法社会へ発展する。
コロンビアのボゴタでは、市民が道徳の勉強から始めた。まず日常茶飯事とされる小さな犯罪の阻止から始め、お互いが尊敬し合って最低限の法令を順守する習慣を身につけた。これで犯罪が激減した。社会の秩序を乱した犯罪は、一般市民らの協力によりさらに減少する傾向にある。
【死刑と安楽死、中絶について】死刑は社会を粗暴化し凶悪化する。文明が逆戻りする。終身刑で十分だ。中絶や安楽死は社会を害さないし、本人にも安らぎをもたらす。自然分娩や陣痛を避けるための帝王切開は反対である。