2007年3月27日付け
【フォルタレーザ】フォルタレーザで毎年行われるマラソン大会に、『必勝』の鉢巻をまき、『押忍』の文字が入ったTシャツを来て走る、非日系の青年がいる――。名前はヘンドリッキ・リンデラウフさん(25歳)。セアラ州立大学の日本語公開講座で教師として教壇に上がっている。同地の文協で教育担当や通訳としても活躍し、その明るい人柄で、日本語に限らない日本文化の紹介を率先して行っている。どのような人物なのだろうか――。
ヘンドリッキさんはオランダ系の三世。ヘンドリッキさんの室内には、棚に堂々と、大小二本の日本刀が飾られている。本棚には日本語の教科書や文庫本、漫画などがズラッとならび、タンスの至るところに、気に入りの座右の銘がマジックペンで記されている。
「ここでは、日本語を話す相手がいないからね、一人で物に向かって話し掛けてたよ。おかしな人だと思うでしょ」。ヘンドリッキさんと日本語の出会いは、古武術に興味を持ったことから始まる。〃古いもの〃から日本の歴史へと関心が広がり、自学自習で日本語の練習を進めた。
十七歳のときに、セアラ州立大学の日本語公開講座に通い始め、それからほどなく教壇に立つようになる。「先生が見つからないし、自分でも勉強しながら生徒たちに教えてた」。日系人が少ないフォルタレーザの事情だった。
二〇〇三年から一年間、国際交流基金の教師養成研修プログラムで日本へ。「研修所の中には日系人とアジア人ばかり。毎日出掛けて、近所のおばちゃんと話すようにしてたね」。この滞日でヘンドリッキさんの日本好きに拍車がかかった。
フォルタレーザの公開講座は今、生徒が急増し、九十人を実質二人で見ている状況。ヘンドリッキさんは、授業の合間には武術の指導に赴き、昨年四月に創立した日系三世中心のフォルタレーザ日本人会では、日本語のできる会員として役員会に参加し、忙しい毎日を送っている。
「授業はお笑いみたいだ。本当に楽しい。課外授業もやるしね」。クリスマスには、日本人旅行者を囲んで寿司パーティー、日本語スピーチコンテストの資金集めのためにレシフェで習字のデモンストレーション、などなど。マラソン大会参加もそんな中の一つだ。
大会出場は今年で三回目。生徒らと八人で組んだ出場チーム名前は『負けは勝ち(Os ultimos serao os primeiros)』。「面白いでしょ」とヘンドリッキさんは笑う。
『押忍』の表示を使うにも訳がある。「この言葉は武道家の挨拶なんだけど、『嫌なことがあっても自分を押さえてコントロールする』ってことなんだよね。今、生徒の間で流行させてるところ!」。
ヘンドリッキさんは大好きな松任谷由美のCDを聞きながら、「僕は非日系だから日本語のどこが難しいかよく分かってる。将来的には大学に日本文学コースができるように頑張っているところなんだ」と話していた。