2007年3月8日付け
□アマゾンのカワウソは「ウッソー」と鳴いた(2)
今回採集に訪れたアマゾン川のブラジル領域中流の町テフェで、偶然知り合ったブラジルのアマゾン自然保護研究機関INPA(インパ)の職員をしてる青年がいた。偶然、彼はペイシェ・ボイ(マナティ)の保護活動に従事しているのだそうで、「私の勤めるこの町の研究所に十メートル四方のプールがあって、そこに漁師の捕獲からのがれたマナティの子供四頭を飼育しているから、見に来たら良いよ」と言ってくれた。善は急げ、で早速出掛けてみた。
「現在、漁師にモリで突かれて怪我している小さいのがいて、昨日傷口を切開したんだ」と言ってプールの側に置かれた五メートル程の水槽を指差した。
この隔離プールで、筆者は初めてマナティの肌に直接触れることができた。その触った感触が前述の〔クジラの尾の身の肌触り〕だったのだ。傷ついた子供のマナティは、時折一人前のクジラ顔負けで、鼻を水面に出して、有名なアメリカ大統領の名前のように「ブッシュー」という響きの水面呼吸を繰り返していた。
メインのマナティが入れてある一般飼育プールとは、金網で仕切られていて、もう一種の動物が、マナティのいない一方に入っていた。これが、筆者のファームでも時折見覚えのあるカワウソだったのだ。最初は何気なく見ていたのだが、こいつが筆者を歓迎しているのか、静止することなく、そこここを走り回っている。水に飛び込み、池から這い上がり、ウロウロ、ウロウロして金網によじ登ったり、で一時もじっとしていない。
しばらくその可愛い姿を見ていたのだが、何だかだんだん笑いが込み上げてきた。カワウソの鳴き声を聞いた人がいるだろうか?日本でも動物園のカワウソはこのような鳴き方をするのか?
よーく聞き耳をたてていると、「ウッソ! ウッソ! ウッソ!」と甲高い大声で鳴きわめきながら、その周辺を歩き回っているのだ。日本語を喋る日本人の私には、それが本当に「ウッソ!」としか聞こえない。自然に込み上げてくる笑い。私がニタニタしていると、例のインパ青年職員がやって来て、「タカシさん、何がそんなに可笑しいのか?」「ブラジルのロントラー(カワウソのブラジル名)は、どこでも、こんな鳴き声をするのですか?」と問い返す。「ああ、そうです。アマゾンのロントラーは、皆、ウッソ! ウッソ!という鳴き声です」「一人大笑い」が一区切りしたところで、「待てよ、どうだろう」ハタと考えた。
日本にも昔はいたというカワウソも、ここのカワウソと同じような鳴き声なのか、と。もし同じように「ウッソ! ウッソ」と鳴いていた、というのであれば、これを聞いた日本人は、当然ウッソ、ウッソと聞いたと考えられる。
そう考えた時、日本にカワウソが生息していた頃、川で「ウッソ! ウッソ!」と吠えているのがいれば、川にいて「ウッソ」と叫んでいる動物〔川ウッソ〕…カワウソ…という名前になったのではない、と考えたのだ。こんな推理はどうだろうか。苦しい?
カワウソの語源は果たしてそのあたりにあったのだろうか。つづく (松栄孝)
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身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
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身近なアマゾン(15)――真の理解のために=眩しい町サンタレン=タパジョス川 不思議なほど透明
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身近なアマゾン(17)――真の理解のために=近年気候変異激しく=東北地方、雨季の季節に誤差
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