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身近なアマゾン(27)=真の理解のために=肥沃な土地であるがゆえに=自給自足生活が営める

2007年2月9日付け

 □キロンボという地名を知っていますか□
 ポルトガル語にキロンボという単語がある。
 ブラジルがまだポルトガルの植民地であった一五〇〇年代中頃、植民地経営維持に不足した労働力として、アフリカから連れて来られた奴隷のある者が主人(というのか、当時は人間扱いではなかったので所有者なのか)から逃げ出して、隠れ住んだ集落のことがキロンボと呼ばれたのである。
 十六世紀から十八世紀にかけて、まだ新大陸が発見されて間もない頃、その新大陸の住人であるインディオを人間扱いしていなかったため、或る部分ではインディオ狩りといって、彼らヨーロッパ人に従わない者を大量に虐殺したり、労働力として捕虜にして使役に使っていた歴史がある。インディオについては、人口密度が低かった点や、男たちがあまり重労働に耐えられない、という特徴を持っていたため、植民地経営において、計画的な労働力の著しい不足に悩まされたのだった。そこで、労働力不足解消の苦肉の策として、また奴隷が商品であったこともあり、アフリカからの奴隷搬入、ということを考えたわけだ。
 ブラジルにアフリカからの奴隷がどの程度搬入されたか、というのは、綿密な帳簿が存在したそうだが、一八八八年イザベル王女によって発案された奴隷禁止令が議会を通過した段階で、奴隷売買の証拠となる書類が、奴隷制度について恥辱の記録を隠すため、官憲によってことごとく抹消されたのだ、という証言が残っている。
 故に、確固とした確実な数値は失われているが、その後に学者が色々の推計をしたところ[おおよそ五百万人位ではないか]という数字が出ているそうだ。
 さて、そのキロンボの話だが、その最も大きな集落が十七世紀に出来たパルマスという名称の町で、ブラジル東北地方にあったそうだ。この町は、結構隆盛を誇ったそうだが、植民地統制政府官憲によって滅ぼされている。現在のトカンチンス州の州都がパルマスだが、この地が該当する最大のキロンボなのかもしれない。
 このパルマス以外にも、ブラジル各地に分散してあったキロンボは、現在にまで脈々と続いている。
 先日、このキロンボの現代版が、私がディスカスという円盤状の魚を採集しに行ったアマゾン川中流のサンタレンという町の対岸で発見された、というニュースがあった。筆者の記憶ではその地名は、パッコバルという集落だったと思う。
 そのキロンボは、二百五十年も前から、下界とは封鎖され、現代文明とは遮断された形で、ジャングルの中にひっそりと存在。二百人余りの集落であったそうだ。
 奇跡のような事実だが、その黒人部落では、二百五十年前の姿そのままで、その二百五十年前時代の言語習慣で生活しているそうだ。
 以前〔戦国自衛隊〕という小説の映画化があったが、このブラジルでは、それが小説というフィクションではなく、現実に存在していたのだ。そんな奇跡的な発見でも、すぐに宗教関係者が乗り込んで行って布教活動を始めている、というのにも驚かされたのである。
 このアマゾン地域は、動物、植物、昆虫や魚類など、まだまだ未知の新種が発見されている土地なので、何ら不思議はないのだが、この事実は、ブラジルという国土が、いかに裕福で肥沃な土地であるか、を物語っている、と思う。
 二百五十年も隔離できていて、そこで自給自足の生活ができる、という事実。そういった事例から、アマゾンのジャングルの中には、まだまだ文明と接触をもたないインディオが多数存在し、別の隔離キロンボなども現存していて、真の意味での自給自足生活を営んでいる、という事実にも納得できる。
 考古学も大切だが、このアマゾン地方には、その考古学で考えられている生活を現実の形でしている人達が存在しているわけだ。これは非常に興味深い。
 人間の精神文化形成の段階を知るためにも、必要な現代考古学の確立された学問だと考える。もっともっとこちらの研究を進めて、大学にもそういう学科があってしかるべきだと思うのだが、如何なものだろうか。つづく  (松栄孝)

身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染
身近なアマゾン(2)――真の理解のために=無垢なインディオ部落に=ガリンペイロが入れば…
身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」
身近なアマゾン(4)――真の理解のために=カブトムシ、夜の採集=手伝ってくれたインディオ
身近なアマゾン(5)――真の理解のために=先進地域の医療分野に貢献=略奪され恵まれぬインディオ
身近なアマゾン(6)――真の理解のために=元来マラリアはなかった=輝く清流に蚊生息できず
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身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
身近なアマゾン(9)――真の理解のために=南米大陸の三寒四温=一日の中に〝四季〟が
身近なアマゾン(10)――真の理解のために=アマゾンで凍える?=雨季と乾季に〝四季〟感じ
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身近なアマゾン(13)――真の理解のために=クルゼイロ=アクレ州の小川で=狙う未知の魚は採れず
身近なアマゾン(14)――真の理解のために=散々だった夜の魚採集=「女装の麗人」に遭遇、逃げる
身近なアマゾン(15)――真の理解のために=眩しい町サンタレン=タパジョス川 不思議なほど透明
身近なアマゾン(16)――真の理解のために=私有地的に土地占有=貴重な鉱物資源確保目的で
身近なアマゾン(17)――真の理解のために=近年気候変異激しく=東北地方、雨季の季節に誤差
身近なアマゾン(18)――真の理解のために=ピラニアよりも獰猛=サンフランシスコ川=悪食ピランベーバ

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