2007年1月25日付け
「すごく強い子が来たんだよ。とにかく皆やられちゃってるんだよー」。プロへの登竜門である奨励会(日本将棋連盟)所属の五級、浅野大介くん(13、東京)が来伯。週末には、ブラジル将棋連盟(奥田定会長)の集まりに参加して、コロニアのアマチュア棋士らに相手に、その強さをみせつけている。会員の馬場康二さんは冒頭のように「とにかく強い」と、驚きを隠さない。
大介くんが来伯したのは昨年の暮れ。父親の転勤により、ブラジルでの生活が始まった。平日は日本人学校、週末は将棋連盟に通っている。
「勝つことを考えるとうれしい。上に強い人がいて自分も少しずつ強くなる」と将棋の醍醐味を話す大介くん。八歳から将棋を始め、「こんなに面白いことをもっと早くに知りたかった」と母親の真美さんに言ったことがある。
詰め将棋と棋譜並べを欠かさず続けるのが日課。「棋譜並べでやったことを実戦で活用できるかで強さが変わる」と、大介くんは勉強の大切さを説明する。
サッカーで左手を骨折したことから、片手でもできる将棋を指し始めた。「はじめは、おじいちゃんに負けて泣いててね。負けず嫌いなところがあるから、何度も何度もやって」と、母親の真美さんは振り返る。
一時の関心かと思われたが、大介くんはその後も将棋にハマる一方。日本将棋連盟の子供スクールに一年間、研修会に一年間通った。年に一度の奨励会の試験に受かったのは小学校六年生、十二歳のときだ。
真美さんは「本人は自覚してないでしょうけど」と前置きし、将棋の魅力は「自分で勝つまでのプロセスを、自分の力で持っていけることじゃないでしょうか」。
大介君は今、五級。四段以上でプロ入りとなる。月に二回行われる公式戦の結果で昇級、昇段があるが、奨励会を休会してブラジルに来た。
「強い人とやらないと強くならない」といわれる将棋。そのため日本を離れることにはためらいがあったが、「まだ十三歳。ブラジルに来れることはめったにないことだし、自分だけで将棋の勉強を続けることができるのか。精神面でのいい試練になると思う」と真美さん。
また、真美さんは「共通の将棋があるし、なじんでるでしょ。将棋を通して、交流がはかれたらいいと思います」。大介くんは日本で、移民に関する本を読み、『ハルとナツ』のビデオを見るなどして移民の勉強をしてきたという。
二十日にはブラジル連盟メンバーを相手に負けを記録したが、二十一日に行われた月例会では、五連勝。大介くんは「反省して勉強した」と笑顔。
大介くんと対戦したことのある吉田国夫さん(アマ六段)は「厳しい手ばかりを指してくる」と感想を述べ、「やはり日本で勉強しただけあって、礼儀が違う」。駒の並べ方、指し方がきちっとしていると、大介くんのマナーを称えた。
奥田会長は「ここまで強いと『手をならう』感じだよね」と賞賛。大介くんの存在が、連盟の会館を訪れる人の増加につながり、連盟の活動を活性化させるのでは、との期待を見せた。