2007年1月24日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙四日】ルーラ大統領が、バスで乗客七人を丸焼きにするのはテロであれば珍しくはないと談話で話した。許し難いのは、このような野蛮な行為を防げないことだと大統領はいう。大統領は動転して事実の認識を勘違いしたらしいと、犯罪学の専門家ロルフ・クンツ氏が批判した。
乗客を満載したバスに放火して乗客ごと丸焼きにしようとした殺人事件を、普通の殺人事件並みに取り扱う神経が異常ではないか。殺害の動機には、イデオロギーも宗教も祖国を思う愛国心もない。テロといえるものではない。
暴力団が無関係の市民を巻き込んだもので、マフィアのショバを拡げるための犯罪行為なのだ。マフィアの言葉でいうなら、犯罪の先行投資であって盗むための襲撃ではない。ついでのコソ泥程度の事件は、起きても目的ではない。
今回の襲撃の目的は金品の略奪ではなく、組織の強化と治安不備な地域への縄張り拡張である。一味の狙撃隊を差し向け襲撃することで、同地域の市民を怯えさせ、当局への通報や密告の阻止ができることだ。
政治や事業の世界と同じように、犯罪の世界でも中央集権制度は組織強化と莫大な利益を上げるための必須条件といえる。単独犯罪は、容易に警察や治安当局の的となり、射殺されるリスクがある。犯罪の質も幼稚である。だから単独犯罪は年々減少する。
しかし、組織犯罪は組織化と技術革新で、基礎が充実化している。取引額も益々大規模となり、完全犯罪化している。産業活動でも業界トップに接触し、カルテル構築などで暗躍している。
価格操作や公共事業の談合の背後には、必ず犯罪組織が目を光らせている。これまで犯罪組織と無縁と思われた企業にも、魔の手は伸びつつある。
業界は円滑な営業活動を続けるため、カルテルに譲歩する。ブラジルでは公正取引委員会(CADE)や経済企画庁(SDE)などが、完全とはいえないが犯罪組織の跋扈(ばっこ)を阻止する役を果たしている。しかし、入札制度の改革は遅々として進まない。
犯罪組織が介在する取引には、政府職員がちゅうちょし、対決することを避ける。政府職員は、犯罪組織との正面対決に訓練されていないからだ。職員は身の危険を察したら、休職願を出し、ほとぼりの冷めるまで外国などで過ごす。政府の組織犯罪対策も、時代遅れが甚だしい。
政府の犯罪音痴は、組織の跋扈を許すばかりでなく、小さな犯罪組織の取り締まりにも不得手である。小組織は略奪や殺人教唆などのリスク取引で莫大な利益を得る。提訴されても、ほとんど証拠不十分で不起訴となるからだ。
マスコミに、犯人逮捕の報道は多い。ほとんどは殺人罪の前科がありながら釈放されるのだ。組織に守られた殺人や誘拐拉致の犯罪者にとって、釈放は予定のプログラムに過ぎない。犯罪は「リスクと利益の取引」と呼ぶ。これがブラジルで楽して最も儲かる商売とされ、「犯罪天国」と呼ばれる所以である。