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コラム 樹海

2007年1月9日付け

 「フセイン処刑」のテレビ放映は衝撃的だった。黒い洋服を着た元大統領は、覚悟はしていたものと見え淡々とした表情だったけれども、絞首刑の画像はやはり目を蔽いたくなるような酷さがある。父親もよくわからない貧農に生まれ教育も受けていないが、バース党の権力闘争に勝ち抜き独裁者になった立身出世の見本といっていい人物であった▼ブッシュ米大統領は死刑執行を「民主化が進み正当な法的手続きによって行われた」としているが、「勝者の裁判」の批判も多い。30年間にわたり強権支配に徹したフセインは、シーア派住民148人殺害事件(82年)の「人道に対する罪」で死刑の判決を受けたが、クルド人5000人虐殺やクウエート侵攻については空白になってしまったことも識者から非難されている。こうした批判はこれからも暫くは続くと思われる▼だが、もっとも怖いのはフセインも信仰するスンニ派とシ―ア派の対立抗争の激化である。この宗派抗争は今も熾烈であり、これまでに万を越す犠牲者が出ている。イラクの統治能力だけでは、この実質的な「内乱」を平定するのは困難だし、フセイン絞首刑が端緒となって混乱が激しくなるの懸念が強い。これにクルド人の難問も絡みイラクの先行きは不透明で明るさに乏しい▼処刑後、シ―アの多い南部で爆弾テロがあり数十人が死傷している。まだ絞首刑との関連は明らかになってはいないが、こんなテロリズムが横行すれば、復興の話も民生の安定も絵に書いた餅になる。願わくば、イラク国民が冷静さと平静を取り戻し、真の意味での国づくりに励んで欲しい。      (遯)