2006年12月27日付け
【ヴェージャ誌一九八六号】サンベルナルド・ド・カンポ市のダイムラー・ベンツ社がブラジルに進出して五十周年を迎えるに当たり、本社からジエテル・ツエッチェ会長が来伯し「日本車に追いつけ、追い越せ」と檄を飛ばした。同会長は二十年前、同社のブラジル・メルセデス時代に生産部長として指揮を取った。同社は破産前夜のクライスラーを吸収し、同会長が立て直しのために派遣され、見事蘇生させた。現在はリコール騒ぎで明け暮れるメルセデスにてこを入れるため、ダイムラー・ベンツ本社の会長として二〇〇五年に抜擢された。
日本車の前に枕を並べて討ち死状態にある欧米車にとって、完ぺきな車を作るプロセスと要領は日本だけの特技ではないと、ブラジル・ダイムラーの従業員に発破をかけた。次は同会長による檄の要旨だ。
【欧米車が日本車攻勢に打ち勝つには】日本の自動車産業は生産の精密度に照準を合わせ、会社はそれをモットーとし、最高度の工程と品質を追求している。その努力は消費者にも伝わる。ブラジル・ダイムラーは、日本車が既に達成したことを追随しているに過ぎない。それは日本人だけの専売特許ではなく、我々にも近日中に達成できることなのだ。
もう一つの方法は企業合併だ。しかし、大企業の合併は、管理が複雑で組織の透明性とグローバル戦略に不利である。これからは小企業が生き残りのため大企業による吸収を求める時代である。もう一つは、中国やインドから新企業が次々と誕生し、活力に溢れていること。この新企業との合弁も選択肢である。
【クライスラーという会社】アイアコッカ氏が一九八〇年に同社を立て直した。二〇〇一年に再度、テコいれをした。自動車小型化時代の到来を見越したクライスラーの低燃費化が当たった。過去五年間に燃料は三倍も高騰し、大型車は消費者から避けられるようになった。
しかし、国際競争力でクライスラーには課題がある。それはアジア諸国が、自動車輸出を照準に為替操作を行っているからだ。アジア勢が結束して為替市場を動かすのだから、欧米車はひたすら耐えるしかない。為替市場が本来の姿を取り戻せば、正しい競争が行われると思う。
【ブラジルへの投資】トラックとバスのボディを基準統一化するため、ブラジルへ大型投資を行った。ジュイス・デ・フォーラ工場には、メルセデス大衆車やスポーツカーの生産設備に投資した。さらに、輸出用の乗用車生産も行う。為替情勢が好転すれば、さらに投資を拡大する。
【自動車の今後】中国が、米国に次ぐ大市場に成長すると見る。そのすぐ後に、インド市場もある。両国は、自動車を購入できる所得層が急増している。それぞれの国情に合った小型車を生産するため、合弁が必須である。
【ダイムラー全社員へ告ぐ】ダイムラー・ベンツの全幹部社員に対し、政治活動と職務以外の個人的地域活動を一切禁じる。会長職を引き受けた以上、結果を出さねばならない。会社の仕事と思っていては結果が出ない。自分自身の結果であり、グループ活動の結果だ。命令に従えるか去るかを問うているのだ。
【会長という仕事】毎日、自社製品とライバル車のテスト・ドライブを行い比較する。時速三〇〇キロで走ると、欠陥はハッキリ見え改善を検討できる。これは会長職の醍醐味だ。
【交通渋滞について】渋滞の中に閉ざされても、自動車は数々の効果をもたらす。自由とか活動とかチャンスとか個人生活の展開などだ。車中でも渋滞の中でも、我が王国という誰にも束縛されない世界がある。自動車購入とは、自分の人生を大きく発展させるための投資であり道具だ。
【ゴーン社長について】今度はルノー本社で、ニッサン立て直しの奇跡が行えるかが腕の見せ所だ。ゴーン氏はブラジルで生まれ、幼時に一時滞在したブラジル人である。私はブラジルに長期滞在し、ブラジル生まれの子供らを持つドイツ人である。