2006年12月21日付け
□ペイシェ・ブセッタ〔その意味?〕(1)□
さて、今日は、ディスカス(女王と呼ばれるアマゾン河特産の魚)について、とっておきの話をしよう。
ディスカスという魚は、アマゾン川を原産とする二十センチ程度にまで成長する真ん丸い円盤のような形をしている魚で、知っている人もいるだろう。
ディスカスは、アマゾン現地ではアカラ・ディスコと呼ばれている。〔アカラ〕というのはインディオの言葉で〔シクリッド属〕という、親が稚魚の面倒をみて育てる魚を総称しており、英語の〔サイクル〕という単語にも関係している意味がある。
〔ディスコ〕は英語でいうところのディスク=円盤のこと。要するに親が子育てをする円盤型をした魚という意味のようだ。
前置きが長くなった。それでは、このアカラ・ディスコが、アマゾン現地では一体どのように扱われているか、という話である。この魚が観賞魚として売れることを知っている漁師以外は、食用に向かない厄介な魚として捨てられているのが普通だ。
というのは、この魚を飼っている人や飼ったことのある人はご存知と思うが、この魚を掬った時や、手で捕まえた時、また、この魚の死魚を水槽から取り出す時など、他の魚とは著しく違い、説明に難しい異臭があるからだ。
こんな異臭のする魚でも、アマゾンは広いので、場所によっては食用にしている所もあるようだ。しかし、食べている彼らにしても、出来るものなら、カラ・アスー(熱帯魚としての名をオスカーという)や、トゥクナレー(同じくアイスポット・シクリッド)、ピラルクー(淡水魚の最大の魚)、みなさんが良く知っているピラニアやパクー(ピラニアに似た草食性の魚)などがあれば、〔ディスカスなんか食べたくないよ〕と言っている。臭い魚として、捨てられる方が一般的なのだろう。
クルゼイロ・ド・スールという町が、ブラジルとペルーの国境近くにある。あと百五十キロ行けばペルー領域というような、ブラジルにおいては最果ての忘れられた場所にある町。国境沿いの町として軍隊の警備のためか、大きな飛行場があって、バリグ航空の定期便もある。そんな町に採集に行った時のことだ。
この町の真ん中を流れるアマゾン支流のジュルア川最上流で、前述のディスカスがいるか、いないか、地元の漁師に聞いて回ったのだった。
なにしろ、このジュルア川の遥か下流には、真っ赤なスポットの入った素晴らしいディスカスが採れる、という川の最上流なのである。川の砂浜に乗り上げたボートの漁師のおじさんに「おじさん、この辺にアカラ・ディスコはいないかね」と聞いて回った。「何やねん、そのアカラ・ディスコっていうのは」と逆に問い返してきた。
断っておくが、現地のブラジル人は大阪弁は喋らない。この文章は、大阪なまりの翻訳口調会話の一節である。
「丸ーるい、円盤みたいな魚で、平べったいカラがいるやろーが?」
アマゾン現地では、前述のアカラのことを「カラ」と呼んでいる。
「あー、カラアスーのことか、それならよーけおるがな」
「違う、違う、カラアスーゆうたらアパヤリーのことやろ?(アパヤリーとはオスカーのインディオ名)それと違うて、もっと丸―るくて、臭っさーいのがいるやろー」
「あー、それやったらペイシェ・ブセッタのことやろー?」筆者はびっくりしたて問い返した。つづく (松栄孝)
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