2006年12月20日付け
【ヴェージャ誌一九八四号】銀行家ダヴィ・ロックフェラー氏が、ブラジルへ注ぐ情熱をヴェージャ誌記者に語った。同氏は現在九十一歳、スタンダード・オイルを興した富豪ジョン・ロックフェラーの孫に当たる。同氏が経営するチェース・マンハッタン銀行は、ブラジルが抱える債務の筆頭債権者でもある。ブラジル政府が借金で首が回らなくなったとき、債務を証券に切り替え急場を凌ぐよう進言したのは同氏であった。同氏が訪伯する度に、米経済使節団が同行し、大口投資が行われている。
同氏が初めて訪伯したのは一九四八年、ルーズベルト元大統領の外交顧問としてであった。ブラジルは美しく、国民は活気に溢れていることに感動した記憶がある。同氏は伯米間の親善促進で、官と民の二団体を設立した功績がある。
ブラジルは当時から、国土の広さと政治的見識で対南米投資の主役であった。現在のブラジルは期待した当初とは違い低迷中だ。しかし、冷静に選挙は行われ、民主政治も根付きつつあり、一時代のモラトリアムの懸念もなく借金を踏み倒す心配もなくなった。
教育と社会福祉システムが充実すれば、国民が一丸となって経済成長に取り組む日が来る。ブラジル人の血には起業家精神が育まれている。航空機産業や鉄鋼、ソフトウエア、エタノールなどは、その産物である。ブラジル人には大国を築く素質があるという。
ブラジルに不相応な外資を貸し付け、ブラジルを財政危機に陥れたとする見方は曲解である。一九七〇年の石油危機で、世界の富は欧米へ集中した。米国は有り余る資金をブラジルへ回し、近代社会へのインフラ整備を行わせたのだ。
数多の水力発電所、全土に張り巡らされた国道網、港湾整備など。一部の政府官僚が資金を着服し、私腹を肥やしたのも事実である。官僚の汚職にチェースは関与していない。不相応な融資は、純然たるブラジルの国内問題である。
資本主義が所得格差をつくるというのは、資本主義が産業の牽引車としての富豪を必要としているのだ。富豪が生まれない資本主義は生き残れない。重要なのは低所得者が努力して中流階級を形成し、下層階級をなくすことだ。
所得格差を是正するためには、経済成長が必須条件である。経済が停滞しているブラジルは、中流階級を形成するチャンスが少ない。経済成長に先行するのは、インフラ投資と教育の充実。それから企業は、利益追求だけが目的ではない。社会の福祉と生活の向上も企業の責任だ。
欧米の社会福祉制度をブラジルへ直接導入するには無理がある。欧米のそれは一朝一夕にできたものではない。ブラジルは、当地の風土に合った福祉制度を構築すべきである。社会福祉とは、子供への家庭教育の一科目でもある。
博物館とは、生活向上のアイデア発表の聖堂である。博物館を芸術作品の展示場と思っているが、それだけではない。訪問者に色々なテーマについてのイデオロギーを訴え、啓蒙し共感を求めているのだ。