□ □ペルー国境の町で□
□ [前編]昼の採集編(2)
サンパウロからクィアバまで二時間かかる。その二点で一時間の時差があるのだが、当日はブラジル中央地方は夏時間を採用していて、さらに一時間の時差があり、現在ではサンパウロとクィアバで二時間の時差がある。そして、さらにクィアバからリオ・ブランコで一時間の時差が追加されて、合計三時間の時差があるのは、あらかじめ分かっていたはずなのだ。
飛行スケジュールや切符には時差が明記されていなかったので、完全にその時差のことを失念していた。そしておまけに、その事実を伝える機内アナウンスもなかった。
計算では、合計八時間飛行機に乗っていたはずが、時差を考慮に入れなかったので、五時間の飛行になっていたのだった。
こんな塩梅で、搭乗していたボーイング737の300型スーパーアドバンスタイプという比較的新しい機種だった文明の利器が、まるでタヌキが操縦していたような錯覚を覚えた。こんな辺鄙な田舎町でも、空港は町の郊外に建設されており、町まで十八キロメートルの距離があるそうだ。
回転カウンターから荷物を受け取って、空港出口に向かい、そこにたむろしていたタクシー運転手の中で、比較的人相の良さそうな青年とかけ合い、適当なホテルに案内してもらうこととなった。
今回の採集旅行は、出発の動機とか計画に緻密さがなく、行き当たりバッタリの状態で、採集できる魚も研究してこなかったので、このようなタヌキが出るような精神的なハプニングが生じたのだ。
町の中心部にある、という簡易ホテルに連れて行ってもらって、ついでにその運転手と掛け合って、翌日の採集の案内を頼み、迎えに来てもらう時間を決めたのだった。早速シャワーを浴び、一休みしてからロビー(といっても入り口のあるサーラと呼ばれる応接室)でホテルの女主人から情報入手だ。
彼女が言うには、「ここから百キロメートルも行けばペルー国境に行ける」そうだ。そういえば、到着した空港の荷物カウンター付近で、空港のエアータクシー会社の職員らしいのが、ペルー行きの乗客の〔客引き〕をやっていたのを思い出した。
「ペルー行きはいないか、ペルーへ行かないか 安くするよ」という日本の競馬場の入り口にいるダフ屋とかタクシー運転手と同じ口調の大声だったので
〔どこでも同じなんだなー〕と感心していた。通称〔ペルー行き乗合飛行機〕なのだろう。運賃も交渉次第というのだそうだ。
女主人と話していて驚いたのだが、最新地方地図によると、州都リオ・ブランコから、このクルゼイロの町までアスファルト道路が通じている、ことになっているのが、その道はここから百五十キロメートル程行った所で通行不能になっているという。
明日、その国道、通称〔トランスアマゾニカ〕を二百キロメートル程走ってもらう約束をしていた。おばさんが〔恐らく百キロも進めないよ〕と言う。
「そしたら、この町は陸の孤島なのですか」と聞き返すと、
「うーん。三年程前からそうなってしまったよ」
自然保護という世界的圧力と、改修資金(予算)不足で、道路が修理できず、一度は開通しかけた国道が荒れたまま放置されているそうだ。つづく (松栄孝)
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