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家庭内暴力対策に効果現る=新法令施行の後=相談求める女性急増=男性の意識改革を

2006年11月17日付け

 【エスタード・デ・サンパウロ紙十二日】家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス)取締りの新法令が施行されて二カ月が過ぎようとしているが、効果は上々で、違反者の検挙や訴えの駈け込みが急増している、男が配偶者や同棲相手に振う暴力への刑罰を重くした新法令のおかげで、ゴイアニア市では女性事件を扱う警察署の留置所が違反者で満員となり、サンパウロ市ではNGO(非政府系団体)の相談が急増、ポルト・アレグレ市では訴えが倍増した。ペルナンブッコ州では六十人が現行犯で逮捕された。しかし関係者は、取締りが暴力の撲滅につながらないとして、逮捕者も含め、いかに認識を改めて正常な社会に復帰させるかの対策が肝要だと指摘している。
 九月二十二日に施行された新法令はルーラ大統領によりマリア・ダ・ペニャ法と命名された。一九八〇年代にマリア・ダ・ペニャという女性が夫の家庭内暴力により瀕死の重傷を負いながらも一命をとり止めた話に大統領が感動し、法令の制定を決心させたと伝えられている。
 これまでは夫の暴力は夫婦喧嘩の一環として取られ、個人や家庭の権利が尊重されて刑罰の対象にならなかった。このため現行犯でも警察の介入は認められなかった。たとえ傷害罪や暴行罪が成立しても、夫は日用必需品(セスタ・バジカ)相当の罰金刑で済んだ。
 新法令では三年未満の実刑が適用される。暴力に限らず、心理的、性的迫害およびモラル侵害、資産流出なども対象となる、警察も現行犯逮捕が可能となった。再発を防ぐため、夫の裁判状況や刑務所内の動行、出所時期などが逐一、女性に報告される。逮捕者は司法の定める場所に更生の指導を受けるため定期的に出席する義務が生じるという厳しい内容となった。
 サンパウロ総合大学(USP)の昨年の調査によると、サンパウロ州では二九%の主婦が被害の経験者で、その多くが火傷、裂傷、鼓膜が破れるなどに苦しんだ。そのうちの四〇%が結婚十五年後に暴力の常習になった。また家庭内暴力はあらゆる階層にまん延しており、貧困家庭のイメージが強いが、医師や弁護士などの有識者にも多いと指摘している。男性上位の考えが暴力の原因となっており、意識改革が必要だとする向きも多い。
 さらに嫉妬が原因で夫婦喧嘩となり、暴力に発展するのも典型的なものだ。相談所に現れた三十五歳の主婦は結婚歴十二年だが、二年前から夫が酒浸りとなり麻薬を常習するようになってから暴力を振うことが日常となった。原因は嫉妬だった。先頃、暴力を受けた後に家を追い出されたという。これまでは相談所もなかったので泣き寝入りをしていたとのこと。
 ゴイアニア市在住の二十七歳の主婦も子供ともども暴力の被害にあっていたが、今回の訴えで、夫は裁判所の許可があるまで家庭に近づくのを禁止された。サンパウロ州サンジョゼ・ド・リオ・プレット市でも同棲中の女性をナイフで刺そうとした男に対し、裁判所は今後女性の一〇〇メートル範囲内に近づくことを禁止する判決を言い渡した。
 逮捕者を更生して社会復帰させる動きも出ている。サンパウロ市のNGOでは、定期的に集会を催し、意見や体験発表で意識改革を試みている。それによると加害者は押しなべて女性が悪いという意識が強いという。このため男性の非を認めさせるのが暴力廃止につながると指摘している。

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