最後の笠戸丸移民、中川トミさんが大往生する十二日前の九月三十日に、実弟の西村光雄さん(90)とその妻トメ(83)さん夫妻の結婚六十五周年パーティが催された場で、親族を前に元気に四曲も披露していたことが分かった。
「まだまだ続けようとするので、家族が心配してとめたぐらいです」と、その場にいあわせたトミさんの甥っ子、中川芳則さんは振り返る。会場となったロンドリーナ西本願寺会館には、サンパウロ市からも駆けつけ、約八十人もの親族が集まっていた。
体調を崩し、当日まで入院していたトミさんは、病院から直接会場へ駆けつけた。最も愛唱していた「すっとんとん節」「道連れ」はもちろん、一歳八カ月で渡伯しただけにポ語の歌も得意で、この時も一曲熱唱した。
いつもなら、滅多に顔を合わせない孫やひ孫をみて「誰だったか?」と言うところだが、この日は孫たちの名前まで見事に憶えていて、「みんな不思議に思っていたくらいでした」と中川さん。「いつもよりシャンとしていたくらい」。
光雄さんの長男、西村鉄男さんは、「みんなに結婚六十五周年を祝ってもらえてありがたい」とあいさつ。最近、ロンドリーナ市から名誉市民章を授与されたばかりのリーノ神父が日伯両語で祝辞を贈った。
当日は、笠戸丸移民で、お金を貯めて日本へ錦衣帰郷した、トミさんや光雄さんの両親(父=宮部弥平、母=トワ)に関する懐かしい話にも花が咲いた。
中川さんもあいさつし、民謡を歌って場を盛り上げた。「今思えばあのときが、(トミさんが)みんなの前に顔を出した最後の機会でした」と振り返った。
最後までニコニコとしていたトミさんは、最近、口癖のようになっていた「思わぬ長生きをした。いつ死んでもいい」という言葉をこの日も何度も繰り返していたという。
トミさん最後の熱唱=実弟の結婚65周年で=往生直前の不思議な話
2006年11月9日付け