秋の叙勲で平岩外四氏が最高位の桐花大綬章に輝いた。東京電力会長から経団連会長になったが、大変な読書家として知られ勉強家でもある。桐花大綬章が民間人である平岩氏ただ1人というのも珍しい。普通なら政治家が選ばれ次いで官僚が続くのが勲章の決まりなのに94歳の平岩氏だけ唯1人が何ともいいではないか▼漫画家・サトウサンペイや俳優の田中邦衛さんと「九段の母」を唄う二葉百合子さんなどに旭日中綬章が贈られたのも爽やかであり、これで勲章の官から民へが一歩進んだような気もする。これにもまして喜ばしいのは、文化勲章と文化功労者に小説家や建築家,映画俳優が選ばれたことである。瀬戸内寂聴さん、音楽評論家の吉田秀和さんが文化勲章。高倉健、丸谷才一、建築家・黒川紀章、舞台美術で活躍する朝倉摂、劇作家と評論家の山崎正和氏らが功労者である▼最近は「鉄道員」などで渋いうちにも逞しいばかりの芸を見せる高倉健はあまりにも有名だ。あの任侠路線ではコロニアの映画館にフアンを惹き付け、赤提灯までがちょっぴり博徒風の「粋」を重んじたりもした。森繁久弥と森光子さんは文化勲章だが、こうした方面では歌舞伎役者などが優先される傾向が強く、映画や演劇にはなかなか目が向かない。そんな観点からも映画俳優・高倉健が文化功労者に選ばれたのは嬉しい▼粘っこくも濃密な筆運びの寂聴も今は庵で仏法を説く尼僧ながら筆への執念は強い。皇居で行われた授賞式での言葉は「小説を書きたい」だったそうだし、これからも澄み切った心から吐露する文章と語りを楽しみにしたい。 (遯)
2006/11/07