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ショーロを世界に発信したい=日本で楽譜集も出版=フルート奏者熊本さんに聞く

2006年9月28日付け

 「ショーロという音楽を世界中に発信していければ」。二〇〇四年からリオに在住、ショーロの普及に熱い思いを持つフルート奏者、熊本尚美さん。〇三年には、日本人として初めてショーロのソロCD「naomi vai pro rio」をブラジルで発売、地元ミュージシャンのレコーディングに参加するなど、ショーロ界ではつとに知られた存在だ。今月二十一日にサントスで行った公演には、地元日系団体も全面協力、会場に訪れた約三百五十人が優美な調べに酔いしれた。二十八日にはドイツ・ベルリンでショーロ形式によるダリウス・ミヨー作曲「屋根の上の牛」公演を行うなど活発な活動の傍ら、昨年には日本でショーロの楽譜集を出版している。熊本さんに話を聞いた。
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 「本当に好きな音楽にまだ出会っていない」。熊本さんはショーロに出会う前の自分の音楽人生をそう回顧する。
 中学時代にフルートに出会い、音楽で大阪教育大学に進学。卒業後は、クラシック音楽のオーケストラでフルート奏者として活躍、音楽家として恵まれた境遇にあったが常に疑問を抱えていた、という。
 もっと愛せるフルート音楽はないか――。そんな模索を続けているとき、知人からショーロのCDを借りる。それが運命の出会いだった。
 夢中になって聞いたショーロ音楽。生演奏に触れたのは、〇〇年に来日していたショーロ界の有名音楽家、マウリシオ・カリーニョさんの公演だった。
 縁あって、ローダ・デ・ショーロ(輪になっての演奏)に参加、その翌日、マウリシオさんから「naomi vai pro rio」という曲を贈られる。感激した熊本さんは二日後、「me espere no rio」という曲を作り、マウリシオさんに手渡した。この二曲は、CD「naomi vai pro rio」に収録されている。
 以来、日伯間を往復、日本でショーロ普及活動を行い、〇四年からリオに在住している。
 来伯前にCDで聞いていたショーロ。そのなかでも好き嫌いがあった。何故か好きだったのはリオの演奏家のものだった。
 「住んでみて分かったんですが、リオは風が違うんですよ。音楽の中でも、その風をはっきりと感じるんです」
 ショーロを生み、育んだリオの風を肌に感じながら、音楽活動を続けるかたわら、マウリシオさんらとの共著で昨年、「ギターとフルートのためのショーロコレクション」(中央アート出版)を手がけた。
 「日本でショーロの楽譜集が出るのは初めて。世界でも初じゃないかな」と民間伝承音楽だったショーロを後世に残したい、と意気込む。
 日本で刊行される管楽器専門誌で、ショーロの曲を紹介するコーナーを担当、執筆する機会にも恵まれた。「広く色んな人に広まっていけば嬉しい」と笑顔を見せる。
 「日本だけではなく、世界中にショーロの魅力を伝えられたら。各国から問い合わせがあるので、英語も勉強しているんですよ」。
 ブラジル音楽ショーロに魅入られた日本人女性、熊本尚美さん。その情熱と思いはまだまだ尽きることがなさそうだ。