ニッケイ新聞 2006年8月10日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙九日】大統領選を間近に控え、大統領府は八日、サンパウロ州政府に犯罪組織州都第一コマンド(PCC)の襲撃に備えた陸軍特殊部隊の常駐受け入れを強要することを決定した。再々にわたるバストス法相の支援表明のほかに、ルーラ大統領が異例の南東軍師団閲兵式をサンパウロ市で行う予定を組んだ。同師団には、新規採用の精鋭部隊二四〇〇人がいる。大統領の兵営訪問は、PCCの第三回襲撃が行われた七日早朝、師団長に伝達された。政府は、PCC鎮圧と特殊部隊の常駐が大統領府の快挙とされ、大いに選挙民の支持を得るとみている。
陸軍特殊部隊は、既に臨戦態勢に入った。これでサンパウロ州知事から軍隊派遣の正式要請があれば、連邦政府でなければPCCの鎮圧は困難であることを示威できるし、大統領府にとってダブルプレイとなりそうだ。ルーラ大統領の閲兵式も、大統領選の宣伝と演出効果は十分ある。
六日夜半から始まったPCCの第三回攻撃は、八日もサンパウロ州地方部へ舞台が移された。破損した建物は一四四、死者五人となった。サンパウロ州知事から軍隊派遣の正式要請がなければ、PCCは父の日に刑務所の内外で派手な攻撃を行うものと予想される。
大統領府の作戦課は、漁夫の利で笑いが止まらないらしい。ブラジルにPCCという犯罪組織をばっこさせた責任を感じる者はいないが、騒動を自己宣伝に利用して点数を稼ぐ者は多い。物事の判断基準が少しずれているようだ。
サンパウロ州政府に出来ないことを、ルーラ大統領がやって見せる。市街に軍隊が出動すると、市民の目に格好がよい。軍隊がPCCを鎮圧した後、特殊部隊は兵営へ帰還する。軍隊の退却後PCCが再蜂起すれば、やっぱりルーラでなければダメだと市民に印象づけられる。ルーラ陣営にとっては、PCC様様だ。
カサパーヴァの第一二軽装備歩兵部隊に召集令が出た。同部隊はハイチへ二回、治安維持で国連平和部隊として派遣された経験がある。さらに予備部隊としてカンピーナスの第一一陸戦隊とリオの空挺隊にも特別召集が出ている。どれも四八時間以内に現地へ到着できる態勢にある。
犯罪組織のばっこに軍隊の介入は、一時鎮圧で威嚇的効果がある。軍隊による治安活動は、軍警や市警のストに備えて訓練されたものだ。暴動や革命で政府がマヒ状態になったとき、代わって軍部が臨時政府を樹立できるように配役が一通り揃っている。
知事は軍隊の出動が一時的解決になるが、根本的解決にならないという。州政府には、刑務所内の規律やPCC幹部とメンバーの連絡遮断という問題が残る。また連邦政府は一時的介入で手柄を独り占めにし、州は普段の努力も空しく無能呼ばわりされる。
連邦政府の軍隊派遣は、タダではない。事件のほとぼりが冷めたら、ツケが回ってくる。治安維持に派遣された兵士は遊園地のあひるだ。バイクに乗ったPCCが兵士に機銃掃射を見舞い、兵士が射殺されたら師団長の責任になる。
軍にとってPCCはゲリラである。ゲリラ戦は少数で対処する。人海戦術で軍警を多数投じ弾丸の雨を犯人に浴びせるのは、警察の手法だ。兵士の犠牲者が出た場合、軍事法廷で責任者が裁かれる。