28日、イタリアのボローニャの裁判所は、メンサロン事件で実刑判決を受けたが刑執行前に同国に逃亡、偽証罪で逮捕中だったエンリケ・ピゾラット氏に関し、ブラジルからの身柄引き渡しの要請を拒否する判決を下した。ピゾラット氏はその後、同市内の刑務所から釈放された。29日付伯字紙が報じている。
ブラジル銀行のマーケティング部長だったピゾラット氏は、12年のメンサロン裁判で、収賄、公金横領、マネー・ロンダリングの容疑で12年7カ月の禁錮刑と130万レアルの罰金刑を言い渡され、13年11月から刑執行の予定だった。だが同氏はその2カ月前の9月、イタリアとの二重国籍者であることを利用し、1978年に他界した実兄になりすましてイタリアに入国。同国マラネロの甥の家に潜伏していたが、今年2月5日に逮捕された。
連邦検察庁はブラジル外務省を通し、3月に伊国外務省にピゾラット氏の身柄引き渡しの要請書を送付した。検察庁は身柄の引き渡しが叶わない場合は伊国でメンサロン裁判に基づく刑の執行をと望んでいたが、同国は「事件が起きたのは欧州でないからそれはできない」と難色を示していた。
ブラジル側の身柄引き渡し要請はピゾラット氏が逮捕されていたボローニャ市の裁判所で審理にかけられた。この裁判でピゾラット氏は、「私はブラジルで不当な裁判を受け、無実のために戦っている」と主張した。
ピゾラット氏の弁護士は同氏の強制送還を回避するべく、マラニョン州ペドリーニャス刑務所で13年10月に起きた受刑囚同士の抗争で、複数の受刑囚が斬首された映像を提示。「被告はブラジルに戻れば殺されると恐れている」「刑務所内での最低限の人権さえ守られていない国に身柄を引き渡すことはできない」と弁護した。
結局、この弁護が認められ、ブラジル側の要請は棄却された。偽証罪だけ問われることになったピゾラット氏はこの日の内に釈放され、自由の身で裁判を待つこととなった。偽証罪だと3年以内の懲役刑となる可能性があるが、それだと執行猶予の範囲内にあたる。
この判決はブラジルの司法界に衝撃を与えた。連邦総弁護庁(AGU)代表として伊国での裁判に携わっていたマルコーニ・メロ氏は、「ブラジルに有利な判決が出ると思っていたので驚きだ」と語った。伊国検察庁は身柄引き渡しに好意的な見解を4月に出していた。
最高裁でもこの結果は衝撃をもって迎えられ、ルイス・ロベルト・バローゾ判事は、「(ピゾラット氏が収監される予定だった)パプーダ刑務所では人権侵害などが起きたことはない」とし、伊国側の判決に疑問を呈した。マルコ・アウレーリオ・メロ判事も、「イタリアの司法が地下牢のような劣悪な監獄だけで本件を判断したことは、ブラジルにとっての恥だ」と嘆いた。
今回の裁判に関する上告はまだ可能で、ブラジルの連邦検察庁はローマ市内のより上級の裁判所に上告する意向だ。なお、同氏は国際警察に指名手配されており、伊国外に出れば逮捕の対象となる。