2006年7月8日(土)
日系人として誇ることのできる街での活発な文化活動の発信地として――「ブラジルのピカソ」といわれた日系人画家故マナブ・マベ(間部学)さん(一九二四―一九九七)の妻よし乃さんが、間部さんら日系人の絵画を展示する「日伯マナブ・マベ近代美術館」を開設する。よし乃さんは去る五月訪日し、間部さんの故郷、熊本で県知事や市長らに美術館建設への思いを語った。日本移民百周年を記念し、〇八年の落成を目標にした計画。よし乃さんにその現状を聞く。
「間部は生前から美術館を建設したいと望んでいました」。よし乃さんは日本で、味の素やコカ・コーラなどブラジルに工場をもつ企業関係者にも会い、美術館建設に向けて計画概要の説明を行ってきた。間部さんの画集「コーヒー園に雨が降る」の抜粋を手渡して、同氏のこれまでの活躍を紹介。「できる限り協力したいという話でした」という。
また「サンパウロ州からも何かしらの援助が必ずあります。この建設計画は州政府へのプレゼントにもなるはずですから」。
開設予定地はリベルターデ区サンジョアキン街の旧カンポス・サーレス州立高校。敷地面積は約二千五百平米。同地は文協から約百メートルの距離に位置し、「東洋人街だし、日系美術館を建設するにはぴったりの場所」である。
同校は九二年に火事で半焼し、事実上「廃墟」となっていた。百人を越える浮浪者が溜まり、近隣住民から取り壊しの要請まで出る有様だったという。
もともとイタリアの建築家が設計した同校建物をリフォームし「斬新で、一流の美術館と技術的、空間的に匹敵する設計」を予定している。
昨年八月にサンパウロ州庁舎で行われた貸与の調印式には、ジェラウド・アウキミン州知事を始め、関係者が多数会場に訪れた。
「日系画家の遺産を風化させないよう、コロニアの宝としてピオネイロ(先駆者)たちの作品も一緒に展示できれば」と、数百点にのぼる間部さんの作品とともに、半田知雄、高岡由也、玉木勇治、田中重人、鈴木悌一、桧垣肇、福島近、上永井正、森ジョージ、大竹富江、若林和男、豊田豊、土本真澄、田中シローといった代表的画家の作品を展示する。
また、建設計画はすでにコンデファット(歴史・文化財保護機関)からの承認を受けた。敷地内には、マナベ・マベ・ルーム、臨時展示場、美術図書館、美術学校用アトリエ、プロジェクターや同時通訳システムを備えた二百五十人規模の講堂など、幅広い文化的活動に利用できるよう計画されている。
「若い芸術家を伸ばすための機会として、作品発表の場を提供したい」。
「下準備は終わった」というよし乃さんは「関係者は皆張り切って取り組んでいます。できるだけ、多くの方にこの計画のことを知っていただいて協力してもらえれば」と広報活動を行っている。
リフォーム、内装整備のための予算は約一千万レアル(約五億円)。「ロウアネ法を適用すれば、企業などの納税の一部を文化事業、芸術遺産復興などに割くことができる」と協力企業を呼びかける。
「百周年のかたちに残るものとして、日系社会が誇り得るものになります。この美術館は間部のものではなくて、日本とブラジル双方の財産になるものです」。「伝統ある学校を復元してリベルターデ内に国際的な美術館を」と計画は進んでいる。