ニューヨーク・ヤンキースの主力選手、松井秀喜は、左手首骨折で三カ月はプレーができない。野球を始めてから(プロ生活は十四年目にして)初めての野球からの離脱だという。物心ついてから毎日が野球漬けだった。今度の空白が今後のプレーに悪影響をおよぼさなければいいと思う▼松井は並みの選手ではないそうだ。これは技量のことではない。頭の中が野球でいっぱいだということだ。十数年も前の自分が打った本塁打の状況について、すべて記憶があるし、肝心な局面で三振を奪われた状況も知っている。それらの〃データ〃が非凡な成績に結び付いているといえる▼人にもよりけりだろうが、高齢者が日ごろ使用しているパソコンから一カ月くらい〃離脱〃すると、クリックする手順を忘れ、元に戻るのに時間がかかる、とよく聞く。長年気の抜けない仕事を続けてきた人がリタイアする(第一線から退く)と、とたんに痴呆状態になる例もあるようだ。痴呆はおおげさにしても、「あのしっかり者が、ああなるのか」と人に言われる例は少なくない▼優れた松井は、野球から離脱している間、どのように野球で頭の中をいっぱいにするか、何を得るのか、非常に興味がある。若いから、体力の「原状回復」にさほど問題はあるまい。バッティングも「高齢者におけるパソコン」のようにならないだろう、と信じることができる▼高齢者は松井と同列に推し量れない。できる限り、何時もなにか継続して夢中になれるものがほしい。(神)
06/06/02