2006年5月27日(土)
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十六日】訪伯中のシラク仏大統領は二十五日、ブラジルが要求する農産物市場の開放は可能な限り最善を尽くしたとし、これ以上の譲歩がないことを示唆した。世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドで、ブラジルが座長を務めるG―20(途上国連合)が工業とサービス部門の完全自由化に合意しても、フランスは農産物補助金の完全廃止に応じる保障はできないと言明した。WTO交渉は最大の難関フランスから大統領を迎えたが、ブラジルが活路と期待する農産物は自由化の難しさを見せつけられた。仏大統領は、農産物交渉では終止符を打つという意思表示である。
アウヴォラーダ宮で行われた伯仏首脳会談は、ブラジル率いる途上国連合がEUの要求に応じる見返りに、仏大統領によるEU案見直しを求めた。最後の一押しに仏大統領は不快感を示した。WTOドーハ・ラウンドについて日本では、年末までの妥結に向けて詰めの交渉に入ったと理解されているらしい。
顔色を変えた仏大統領は同時通訳のイヤホンを耳から外し、仏語の分らないルーラ大統領に仏語で抗議した。「同じことをクドクド言うな。途上国や半途上国に対するEU案を今、言ったばかりじゃないか。米国にも譲歩すべき点がある。みんなに少しずつ譲歩させろ」と。
シラク仏大統領の露骨な態度は、ブラジル側関係者にとってドーハ・ラウンドの座礁を意味した。まずEUの難所フランスが譲歩拒否なら、米国内で実施されている補助金制度の廃止も不可能とみられる。第二は、先進国に都合のよい利己的案には合意できない。
ブラジルが最後の切り札とする農産物は、EU最大の農業国フランスによって夢を破られそうだ。シラク大統領は、米案に対抗する伯仏同盟を提案した。仏大統領によれば、ドーハ・ラウンド成否の鍵は米国が握っているという。
現実として工業とサービス部門で、先進国がEUへ提供するものは何もない。後は米国が何をするか、補助金制度を煮詰めよと仏大統領はいう。香港で二〇〇五年十二月に行われたWTO会議は失敗であった。米国は、伯仏両国が成否の鍵を握ると思っている。
ルーラ大統領はドーハ・ラウンドに足を取られ身動きできない事態を避けるため、G―20とEU、米国が農産物に議題を絞って話し合うことを提案した。ドーハ・ラウンドの決裂は、世界に餓死者を生み出し政情不安につながる。ドーハ・ラウンドは、単なる経済や貿易の問題ではない。WTOにからむ問題を放置するなら、世界は十年以内に混乱状態に陥ると大統領は警告した。
ルーラ大統領は、仏大統領の招きでロシアのペテルブルグで開催されるG―8サミットへ参加し、エタノール国際基金の設置を提案する。同基金でアフリカやカリブ諸国などの途上国にエタノール生産のための資本投下を促す。これら途上国はエタノール生産で、石油依存の産業構造から開放される。伯仏両首脳は農産物を巡って血圧を上げたが、エタノールでは意気投合した。