先日のニッケイ新聞一面に「イワシ1匹1000円」「大衆魚よ」サヨウナラの記事があった。鰯も7度洗えば鯛の味―とは云うけれども、いかに大型とは申せ1匹が1000円もしては、とても庶民の口には遠い。それもこれも獲れなくなったのが原因らしい。本場・房総の九十九里浜にも寄り付かないし、鳥取の境港も小型ばかりでいい物は少ない▼東京・築地の市場で仕入れたのは鮨屋らしいが、これを握って客に出せば1貫(二つ)1000円にもなろうかと記事は続く。青森県の漁師が津軽海峡の荒波で釣り上げた本マグロは300キロ近いもので一本が2000万円を超すときもあり、このトロを握れば1貫が万円を超す勘定書きがくるそうだから、これに比べれば安い。しかし―である。イワシの握り鮨が1000円はやっぱり高い▼味の好みはそれぞれながら鮮度の良いものなら刺身が抜群だし、摺ってから団子にした澄まし汁もいい。千葉県では「くさり鮨」があって珍味と耳にする。イワシとご飯を混ぜて20日ほど寝かせ発酵させた熟鮨(なれずし)で冷蔵庫もない大昔からの伝承食品らしく、栄養価も満点だし保存も効く。勿論、塩をふって焼き大根下ろしをたっぷりと沿えた熱々も堪らない▼サンパウロのイワシも秋が旬。今ごろが美味なのだが、今年は少し脂の乗りが良くないようだし、本来の旨さがないような気もする。それでも手開きにし酢味噌で和えたり、極上に出会えば刺身に挑戦したりと楽しい。何よりもいいのは「安い」ことでその気になれば幾らでも食べられる有難さである。(遯)
06/05/27