2006年5月26日(金)
一人、二人、三人と、「ふるさと」を聴く一世古老たちの目が感涙でうるんでいく。二十日、パラグアイのイグアスー移住地にある鶴寿会での一場面だ。歌う中平マリコさん自身が〃ふるさと〃の大切さを自覚させられる場面でもあると言う。ただ歌うだけでなく、一曲、一曲に魂を込めて歌うことの大切さを古老たちの純粋な姿勢から教えられる、とも言う。
約九十日間におよぶ中平マリコ・二〇〇六年南米公演の旅が、五月十四日にパラグアイで始まった。振り出しはブラジルとの国境にあるシダデ・エステ市の鹿児島県人会。十五日にはパ国における日本人移民発祥の地として知られるラ・コルメナに移動して、同移住地で挙行された移住七十周年記念祝賀会に華を添えた。
今年は、昨年の公演で実現できなかった、美空ひばりの「柔」を聴きたい、という移住者の熱い願望を叶えることができた。公演はエンカルナシオン、ラ・パス、ピラポ、イグアスー移住地と続いた。あけぼの会、長寿会、寿春会、鶴寿会などの老人クラブと日本人会での二本立て公演の連続だったが、「皆様から逆に英気とエネルギーをいただけるので疲れない」というマリコさん。
二十四日、首都アスンシオンにある日系社会福祉センター(通称・CLINICA NIKKEI)でパラグアイでの公演を締めくくった。
南米へ出発する直前の四月下旬には旧神戸移住センターで開かれた「移民祭」にも招かれて「ふるさと」を歌ったマリコさん(本紙・五月四日報道)は、この旧移住センターの保存活動にも共鳴して、パラグアイでは来場者に賛同署名を訴える役割も果たした。
今年、入植四十五周年を迎えたイグアスー移住地で祭典執行委員長をつとめる日本人会会長の福井一朗さん(岩手県出身)は、「歌謡大使の歌を聞いて『ふるさと』意識を更に強めた。子弟たちにこの意識を伝えたい。来年もぜひ来て欲しい」と移住地の声を語気を強めて代弁していた。
中平マリコ〝歌謡大使〟の南米公演はずっとボランティア活動だ。「私は移住者の皆様から生きる喜びと夢をいただいています。これに勝る体験はどこでもできませんよ」と応えている。
今回は母親の芙早恵さん(七六)を同道している。「母も私も大阪生まれですが、母の両親は高知県の四万十川市(旧中村)出身です。私には土佐と浪速の血が混在しているようです」。
五月三十一日にブラジルに移動して、八月二日までの長丁場を各地で「ふるさと意識」を招く歌を披露する。(渡辺忠通信員)