2006年5月17日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十六日】サンパウロ州をパニック状態に陥れたPCC(州都第一コマンド)による一連の襲撃は十五日、リーダーのカマショとサンパウロ州政府代表三人との話し合いにより中止となった。サンパウロ市では多くの商店や学校が早々に閉鎖し、企業は社員を帰宅させた。機銃掃射や銀行襲撃、バス焼き打ちなどのデマが飛び交い、市民を混乱に巻き込んだ。企業は路線バス五一〇〇台を回送し、通勤者五〇〇万人の足を奪った。交通渋滞は一九五キロメートルに及び、過去最高を記録した。商店街やショッピング・センターは死の街と化し、空港も爆破の噂で航空機の離着陸を停止した。
国連は事態を重視した。ブラジル政府は、問題に根本的に取組むべきだと国連の専門家が警告した。これは歪んだ経済発展の落とし子という。ブラジルでは低所得層の若者への社会政策が拙劣なため、犯罪組織の新しいメンバーに起用されるとみている。
多国籍企業は、PCCがコロンビアの犯罪組織よりも凶悪で、内戦の一歩手前だと判断している。スイスの調査会社は、サンパウロ市の治安度を投資有望国六一カ国中、五八番にランクづけした。投資国の条件として経済が成長中であり、かつ高度の治安が要求される。
都市ゲリラに四〇年間悩まされたコロンビアでは、二〇〇万世帯が家庭を破壊された。メキシコは世界一の誘拐王国であるが、サンパウロ市よりはマシ。アフリカは人種差別が原因とする殺人や強盗が絶えないが、サンパウロ市より平和という。
金融市場は、PCCの暴動の早期鎮圧を期待している。長引くと、外資は犯罪組織が闊歩する国を敬遠する。世界のマスコミ、CNNやBBC、有力各紙がPCC襲撃をトップで扱った。世界がサンパウロ市に焦点を合わせて動向を見守っている。PCCの台頭と労働者党(PT)の政治危機で、レアル通貨が下がったら皮肉な話だ。
一方、下院では野党がルーラ政権の治安対策の不備を指摘。アウド下院議長は組織犯罪防止のため、国家公安法の審議を始めた。事件が起きる度に陸軍治安部隊の派遣を検討するが、発動したことがない。法整備がないため、正式に治安部隊が編成されない。そのため州政府は犯罪組織のテロに泡を食っている。
連邦第五高等裁が受刑者の携帯電話使用を重大規律違反から外し、減刑点数を失うだけにした。そのため所内と外部の連絡は放任状態にある。所内ではクローン携帯電話を雄山羊と呼び、秘密連絡センターとなっている。PCC本部は所内にあり、指令は瞬時に外部の末端まで届く。
テロの犠牲者は九十六人に達し、軍警が怒りとともに結末に固唾を飲んでいる。州政府代表とカマショPCCリーダーの間では、弁護士を通じて治安施設や裁判所、銀行、地下鉄構内への襲撃中止に応じたものの、合意内容は未公表だ。
犯罪組織の襲撃を予測できたのに多数の犠牲者を出し、未然に防げなかったことで当局への批判が集まっている。PCCリーダーと話し合ったことは、治安当局が統制能力のないことを意味する。襲撃中止を条件に何か合意をしたなら、犯罪組織に対する降伏だと、軍警らはやりどころのない不満を漏らした。