2006年5月16日(火)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十五日】犯罪組織州都第一コマンド(PCC)の幹部を含む受刑者七六五人をプレジデンテ・ヴェンセスラウ刑務所へ移送したことで、PCCが報復にサンパウロ州全域の警察署など一連の治安施設一一五カ所を十二日以降襲撃し、これまでに七七人の犠牲者が出たと十四日、サンパウロ州保安局が発表した。襲撃を受けた施設は一一五カ所、犠牲者は殉職した警察官が三七人、PCCメンバーが二三人、受刑者が一五人、巻き添えになった市民が二人。けが人は四四人。州内刑務所一〇五カ所の内、七一カ所で暴動が発生し、ブラジル史上最大の刑務所暴動となった。レンボサンパウロ州知事は受刑者移送に伴う騒動の可能性について前以って報告を受けており、特に驚くことではないとした。
襲撃の目的は二つ、母の日に受刑者の母親の訪問を許可すること。テレビ六〇台を刑務所内に設置し、サッカーW杯を観戦させることとPCCが声明を発表した。サンパウロ州政府は要求を拒絶、話し合いにも応じないと返答した。
刑務所暴動七一カ所の内、鎮圧したのは二五カ所のみ。職員二三七人は、まだ人質となって受刑者の監視下にある。ジャボチカバル刑務所長は生身に火を点けられ、七〇%の火傷を負った。少年院はタトァッペーとヴィラ・マリアで呼応した。
次の目標は経済活動の混乱と社会不安とされ、銀行支店が多い市中心部の要所に当局が厳戒体制を敷いた。市民の不満うっ積の原因は、不罰特権を生かし公金を横領する政治家や取り巻きの特権階級が温存されていることとPCCが訴えるとみられる。
サンパウロ州保安局は非常措置として、刑務所付近の携帯電話ベース・センターの一時活動停止をブラジリアの当局へ要請した。刑務所にある従来の送受信遮断設備だけでは間に合わないことが判明し、電信庁(ANATEL)が内戦用非常規定を設けるよう法務省へ泥縄ながら申請した。犯罪組織が独自のベース・センターを五カ所持っており刑務所内のメンバーと自由に通話している。これを遮断しないと、犠牲者が今後も続出する可能性がある。
都市犯罪を研究する人類学者のザルアル教授は、サンパウロ州の犯罪組織が周到に集権化されていることを明らかにした。今回のPCCによる襲撃事件は、社会の裏面に深く根を張る組織の一局面に過ぎないという。犯罪組織は背後で政治家と巧みに癒着した、想像以上に統制された社会だと述べた。
犯罪組織は南米の左翼ゲリラから指導を受け、組織化された。政治家と関係を保ちながらコロンビアやボリビア、ペルーで活動するテロ組織の指導を受けている。だからPCC独自の活動ではなく、国際的組織といえる。襲撃事件は背後で外国のテロリストが指導しているという。
外国では時代遅れの手法として廃れたが、リオデジャネイロ市では麻薬密売人らが政治家との癒着方法や資金の活用法などの指導を受けた。同教授は「市民の不満うっ積と暴発の構造」や「暴走と犯罪の関係」「貧困と麻薬の温床」などの著書がある。サンパウロ州当局では残念ながら、犯罪組織の成立について造脂ある者がいない。悪の根を絶たずに芽だけ摘んでも、組織犯罪の根本解決にはならないという。