2006年4月6日(木)
【既報関連】「第八回岡山・吉備の国 内田百閒文学賞」の受賞作品が三月十五日に、書籍として刊行された。山野優花のペンネームで随筆部門最優秀賞をとった、中田みちよさん(日伯文化連盟日本語講座講師、青森県出身)の『わたしの「クラシッキ」』が収録された。選評が書籍の帯に使用されるなど、審査員から高い評価を受けている。
この作品は、亡き娘(ユウコさん)がイタリア系の夫、リカルドさんを自宅に連れてきたときの混乱や葛藤を通して、ブラジル社会への日本人移民の融合を描いたもの。
日系コロニアは、〇八年に移民百周年を迎える。日系人家庭では非日系人との婚姻に対して、両親が抵抗感を示すことが少なくない。
交際を認めてもらうために、二人はリカルドの父(故人、元化学技師)が仕事上の視察で、倉敷を訪れた時の写真をみせて、筆者(みちよさん)との会話の糸口をつかむ。娘の恋人は、「クラシッキ」と発音した。
ユウコさんは、二十八歳の時にがんで死去。リカルドさんとの間に、ルッカス君を残した。混血児の彼は日本語を学習。「クラッシキ」から「倉敷」と、日本語に近い発音になっている。近い将来、孫とともに倉敷を訪問するのが、みちよさんの夢だ。
審査員は阿川弘之さん、飯島耕一さん、小川洋子さん。
阿川さんは「ブラジル在住五十年の筆者は、がんで亡くなった娘の夫、イタリア系ブラジル人の若者が『クラシッキ』と発音する倉敷にあこがれて、孫と二人、近く初めて、吉備の国を訪れようと思っている。その哀切な思いがほのかなユーモアに包まれている」。
小川さんは「『クラシッキ』は好感の持てる作品だった。娘のボーイ・フレンドが日系人ではないと分かった時の混乱と、そこから少しずつ皆の心が通い合ってゆく過程が、温かく伝わってくる。ブラジル人社会の大らかさを吸収し、様々な問題を受け止めている様子がよく描かれていた」と選評している。
中田さんは、作品をポルトガル語に翻訳してもらい、リカルドさんの肉親たちに渡した。
「日本の人に、ブラジルにいる日系人の存在を知ってほしい。コロニアでも二世や三世の人たちに読んでもらえれば」と喜んでいる。