2006年3月22日(水)
ブラジル移民の歴史を歪める博物館?!――広島市がインターネット上に開設し、「移民県といわれた広島、そして移住者への関心を高め、知識を深めるきっかけに」を謳い文句に今年二月に公開を始めた「広島市デジタル博物館」(http://dms-hiroshima.eg.jomm.jp/)が問題になっている。ブラジルをはじめ世界各国へ移住した県民から資料の提供を受け、開設された同博物館。その内容に地理、歴史的な間違いが続出していることが分かり、〃デタラメ博物館〃と関係者は憤りの声を挙げている。地元の中国新聞は十八日付紙面で「移民博物館ミスだらけ」の見出しを掲げ、市の海外日系社会に対する理解のなさを厳しく指摘。こうした状況を受け、市では修正を理由に同サイトを閉鎖した。
「でたらめで歴史を歪める内容。『何をやっているんだ』と大声を上げて抗議を申し込みたい」。サンパウロ人文科学研究所の宮尾進顧問は憤りをあらわにする。
同ホームページでは、サンパウロ州バストスで撮られた写真の説明に「アマゾンの開拓は、屈強な移住者たちにとっても大変な作業であった。(後略)」という文章を記載するなど、歴史、地理的に致命的なミスが散見される。宮尾顧問はこうした同サイトの内容に、「市もひどいが、JICAはチェックしていないのか。移住関係に詳しい人間もいるだろうに」と首を傾げる。
「内容を確認、修正し、精度を上げたうえで、改めて公開を行いたい」
文書を作成した市スポーツ文化部の松出由美文化担当課長は二十日(日本時間)、本紙の取材に対し、同サイトを閉鎖する考えを示した(二十一日現在、『内容の一部を修正中』を理由に閉鎖されている)。
資料写真のキャプションや概要などの文書を作成したのは、嘱託を含む三人の〃学芸員〃。文献は主に「ブラジル日本移民八十年史」「広島県移住史」を参考にしたという。
「早く見てもらいたい、という気持ちだった。結果として、博物館に値しないものになった。しかるべき人に監修してもらい、写真などは寄贈者本人に確認を取りたい」
しかし、資料収集から二十数年経った今、鬼籍に入った寄贈者も多く、住所、電話番号の変更もあるため、事実上困難だ。
「大変胸が痛みます。早急にこれから内部の方針を決めていきたい」
広島市の移民、日系社会に対する認識と理解のなさ、あまりにも杜撰な姿勢もさることながら、移住業務を推進してきたJICAは何のチェック機能も果たしていないのか―――。
「JICAとしては、入れ物をお貸ししているだけで、業務も海外移住資料館に委託しており、内容に関しては把握していない」
「海外ネットワーク化プロジェクト」を担当するJICA横浜業務第二チームの藤井敬太郎チーム長は、あくまで技術面での協力を強調する。
「広島市は専門家のスタッフがいると聞いており、しっかりやっていると理解している。(市デジタル博物館は)JICAのホームページとリンクしているので、市とも話し合い、適正な処置を取りたい」
市が職員を現地に派遣して一九八〇年代に行った資料収集に協力し、広島で開かれたシンポジウムにも参加した清谷益次さん(90)は残念がる。
「困ったねえ。こんなものを出されちゃあ」と苦笑いしながらも、「でも、移住政策からしてそうだけど、日本の見方ですよね」と移民や日系社会への理解のなさに諦観すら漂わせる。「今は色々な展示方法もあるんだろうけど、これは訂正する必要がありますよ」
ブラジル日本移民史料館の大井セリア館長は、「ブラジルの地理も歴史も何も知らない人が作っているのでは。説明などを充実させ、資料の価値を高めるべき」と是正の必要性を訴えている。