2006年3月11日(土)
僕はカリオカだよ。ブンダ(尻)からインスピレーションが沸くんだ――。
名曲「イパネマの娘」の制作秘話をトム・ジョビンが坂尾さんに語っている写真が本の帯にあしらわれている。
サンパウロ在住の音楽評論家、坂尾英矩さんの半世紀にわたるミュージシャンたちとの交流とエピソードの結晶ともいえる『ボサ・ノーヴァ詩大全』(中央アート出版社)が二月出版された。定価三千百五十円。
対訳がついた三十五曲それぞれにまつわるエピソードや解説、坂尾さん自身が聞いたボサノバの舞台裏がふんだんに盛り込まれた二百七十頁。有名曲はもちろん、一九三〇年代のカーニバルの曲などにも触れ、ボサノバの源流もたどった。
音楽は社会を反映するという見地から、流行当時のブラジル社会の状況にも触れ、総体的にボサノバの世界が理解できるように試みられている。
今まで公開されたことのない坂尾さん秘蔵の写真も多く盛り込まれており、ファン垂涎の内容だ。
「商業都市だったサンパウロの観客がミュージシャンを支えた。リオで生まれたボサノバは、サンパウロで育ったといっても過言じゃない。何故か―、本を読めば分かると思います」
ボサノバ誕生以前から音楽活動を行い、サンパウロ総領事館の広報文化担当を二十五年務めた坂尾さん。サンパウロに公演に訪れたミュージシャンとの交流を重ねてきた。
「ブラジル人でも聞いたことのないビックリするようなエピソードがあると思いますよ」とその内容に自信を見せる。
今まで書かれなかったサンパウロにおけるボサノバシーンを中心に据えた〃新しい〃ボサノバの歴史といえる坂尾さん渾身の一冊だ。
なお、同書は本年度の日本図書館協会選定図書に選ばれた。「半世紀にわたる交流も含めた経験が認められたということでしょうか」と坂尾さんは、素直に喜びをかみしめている。