「石麻呂にわれ物申す夏痩せによしといふものぞむなぎ取りめせ」は大伴家持の句で万葉集にも載っている。日本人の鰻好きは有名ながら奈良時代の昔から愛好家が多くいたらしい。が、その生態についての詳細は不明だし解らないことが多い。「山芋変じてウナギと化す」の伝説が実しやかに語られたし、あのアリストテレスでさえも「ウナギは泥より生ず」と喝破?している▼先ず第一に―産卵の場所がわからない。決して山芋や泥から生まれるのではなく、何処かで卵を産み孵化するところがあるのに―これが解らない。恐らく何万年も何十万年も前から海の中でウナギは産卵し「仔魚(しぎょ)」が泳ぎ遠い日本や台湾に辿りついたはずなのに―である。その「難所」を東大の塚本勝巳教授らが発見した。日本の南約2000キロのマリアナ諸島西にあるスルガ海山だと特定した▼その海域で全長4・2―6・5ミリの「仔魚」を数百匹捕獲し、遺伝子を解析したところニホンウナギだったという。この「仔魚」は孵化したばかりでまだ目も口も出来ていない。古いスクラップを見ると、塚本助教授(当時)は1991年に今回と近いところで体長1センチの幼生を見つけ「産卵海域」を見つけたと新聞は大きく報道している▼あれから15年―。塚本教授と東大海洋研究所は調査船「海鳳丸」に乗り地道な研究を重ねた成果が、産卵の謎を解き明かす21世紀の発見に通じた。研究所によると、これらの「仔魚」は海流にのって3000キロを泳ぎ日本に着く。長い長い旅をご苦労さま。そうと知れば蒲焼にも「ありがとう」と御礼を申し上げなければ。 (遯)
06/03/11