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ウルグアイの自閉症児教育=三枝専門家講演=関心集める=生活療法の効果など紹介

2006年1月28日(土)

 講演会「自閉症児の将来の展望」が二十一日、日伯友好病院で開かれた。ウルグアイで長年活動を続ける専門家の三枝たか子さんが同国の自閉症者教育の現状や、昨年末に竣工した成人向け自立訓練センターの活動を紹介した。当日は酒井清一サンパウロ日伯援護協会会長、JICAサンパウロ支所の石橋隆介次長など来賓のほか、父兄など七十人以上が会場を訪れ、関心の高さをうかがわせた。
 脳の障害が原因といわれる自閉症。重度の場合一万人に一人、軽度の患者を含めると五百人に一人の割合で発生するといわれるが、その原因は今のところ分かっていない。
 三枝さんは九四年にJICA専門家としてウルグアイに派遣され、以来十年にわたって同国の自閉症児教育施設「モンテビデオ・ヒガシ校」で指導にあたっている。
 同校で行われる「生活療法」は、日々の集団生活を通じて自閉症の症状改善を目指すもので、東京都の「武蔵野東学園」ではじまった。
 同学園で三十年以上自閉症児の教育に携わってきた三枝さんは、アメリカ・マサチューセッツ州のボストン・ヒガシ校で八七年の開校から副校長を務めた。その後、ウルグアイで生活療法の導入にあたり、成人の自閉症者が自立した生活を送る職業訓練センターの設立にも尽力してきた。
 サンパウロでの講演は〇三年十二月以来二度目。ブラジルに同様の施設はまだなく、自閉症児を持つ父兄を中心に設置に向けた運動が進んでいる。この日の講演はサンパウロ日伯援護協会の協力で実現した。
 「生活療法を一つの教育のアプローチとして参考にしてもらえたら嬉しく思います」と語る三枝さん。この日の講演では、自身の派遣当時「放置状態だった」ウルグアイの自閉症児教育が辿ってきた道のりを振り返るとともに、映像を交えて同国の現状や生活療法の効果を説明した。
 日々の集団生活を通じて症状の改善を目指す「生活療法」。三枝さんはその柱として「体力づくり」「心づくり」「知的開発」の三点を強調する。
 運動により年令相応の体力をつけ、集団生活への適応力を養う「体力づくり」と、あいさつや言葉、生活習慣のトレーニングを通じて子供の成長を促す「心づくり」。そして、体力と情緒の安定を得た後に、知的能力を引き出すための指導を行い、健常児の成長に近づけていくという。
 三枝さんは、集団に溶け込むことが苦手な自閉症児に集団教育を施すことが、子供の依頼心を取り除き、周りを模倣する力や集団に適応する力を養うことにつながる、とその効果を挙げる。「健常児と同様の成長を前提に、希望を持ってやってほしい」と語った。
 現在モンテビデオ・ヒガシ校では、小学校にかけて身の回りのことや生活習慣を学んだ後、中学校で社会的な自立に向けた職業訓練に取り組んでいる。
 昨年末に竣工した自閉症者自立訓練センターは、入所者が農林業に取り組みながら自給自足を目指す施設。野菜作りのほか、パンや青汁などの食品加工も行っている。
 「ウルグアイでは健常な成人でも仕事を見つけるのが難しい状態。成人の自閉症者が親亡き後どのように生きていくのか」と三枝さんはセンター設立にかけた思いを表わした。
 会場では、モンテビデオ・ヒガシ校の授業風景のほか、センターで作業する成人入所者の様子を撮影したビデオも流された。「自分たちの仕事として、笑顔で活動している姿を見てほしい」と三枝さんは会場に呼びかける。
 「親は『ほめ上手』『叱り上手』でなければなりません」と語る三枝さん。講演の最後に「子供の良いところを見つけ、三つほめて一つ叱ることが大事」と保護者へ語りかけた。
 現在、ブラジルにも生活療法を取り入れる運動が進んでいる。自身も自閉症の子を持つ医師の矢野高行さんを中心に、すでに実験的に実施する動きが出てきている。援協も協力する姿勢を見せているが、技術移転の方法、指導者の育成など今後の課題はまだ多い。
 日本やアメリカでは自閉症児を受け入れる施設には政府の補助金があるが、中南米の国ではその可能性は低いという。南米における今後の自閉症者教育について三枝さんは「ウルグアイの施設を起点としてブラジル、パラグアイ、アルゼンチンなど南米各国でネットワークを作りたい」と将来像を語った。