ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 今年の大統領選挙をこう見る=―決戦投票で逆転の可能性もー=赤嶺 尚由(ソール・ナッセンテ人材銀行代表)

今年の大統領選挙をこう見る=―決戦投票で逆転の可能性もー=赤嶺 尚由(ソール・ナッセンテ人材銀行代表)

1月1日(金)

 今年は、四年に一度の大統領選挙が行われる年である。焦点は、言わずもがな、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ(通称ルーラ)現大統領が再選を果たせるかどうかだ。ちょうど昨年今頃の政界、財界、ジャーナリズム界の信頼できる筋の見方は、「ルーラ再選でまず間違いなし」といった点で一致していたが、大統領の所属する政党(PT)と政権を巻き込んだ未曾有の大型不正汚職事件が発生して以来、その支持率も見る見る内に急降下してしまった。現時点での再選確率は、限りなく不透明に近く、もし大統領選挙の第二次投票(決選投票)でルーラ現大統領とサンパウロ市のセーラ市長が対決した場合、後者が当選して中原の鹿を射止めてしまうという世論調査の途中経過さえ出始めている。普段、政治の世界に無関心を装いながらも、見るべきものをちゃんと見ている一般国民から一体どんな審判が下されるか、極めて注目される。

■再選の足かせ4材料

 少し手前ミソになるのを許していただいて、二〇〇六年十月一日の大統領選挙でルーラ現大統領が再選される可能性は、余程の突飛なことが起こらない限りまず間違いないだろうが、その余程のこととは、現政権とそれを支えている与党陣営の中核政党であるPT(労働者たちの政党)を巻き込んだ大型の不正汚職事件の発生である、と言った意味合いの予測を筆者が出したのは、昨年二月下旬に行われた商工会議所の定例部会長懇談会の席上であった。ちょうど同じ時期、有力伯字紙のヴェテランで高名で時の政権にいつも辛口の政治コラムを書いているクロヴィス・ロッシ記者ですら「ルーラ再選の確率を八十%もある」と、かなり強気で占っていた。
 あの当時、パチパチとかすかに火花が散る感じと、漂い始めた事件のキナ臭さや異(腐)臭を一部の消息筋の間では、既に嗅ぎ取り始めている形跡もあったが、それから約四ヵ月後の昨年六月中旬に、PTB党首のジェッフェルソン下議(当時)とフォーリャ紙との単独インタヴューに端を発し、堰を切ったように外へほとばしり出た不正汚職事件の規模は、誰の予測も上回り、大型過ぎてつい持て余してしまう位だった。こういった類の事件が日常茶飯事に起こり、且つ、いくら悪いことをしても、容易に捕まることはないんだ、といういわゆるイムプニダーデ(非罰主義)の風潮で神経が少々麻痺しかけている消息筋も「どこまでやるの」と、改めて戸惑いの色を隠さなかった。
 大方の驚きの原因は、それまでのエリート(特権階級)による長年の支配構図に終止符を打ち、庶民の味方の旗印を高々と掲げ、名も無く貧しい多くの一般国民のために、暮らし易い社会の建設を目指してムダンサ(単なる変化よりももっと強い変革と言う意味合いか)を標榜し、見事当選を果たした大統領とは容易に結び付き難い不正汚職事件とその規模の大きさだったからである。この国にムダンサの風を吹き込もうといった美味しそうな公約は、ただ単に当選を果たす為のうたい文句で、結局は、これまでの既成の政党や政権と同じく、私利私欲と党利党略を満たすだけが目的だったのか、という世論の矢面に立たされることになった。

■「PTよ、お前もか」

権力の座というものは、それを掌中にする者をしばしば陶酔も堕落もさせ、挙句の果てには失脚させるというのが洋の東西を問わず政権担当者にほぼ共通する図式であるが、この事件を機に「PTよ、お前もか」と、時の政権と与党に向けられる一般国民の目と風当たりが急に厳しくなってきたのである。それと全く正比例するかのように、今年の大統領選挙では、他の候補を寄せ付けず、圧倒的な強さで現大統領が再選を達成するだろうといった巷の予測も、DataFolha、Ibope、CNIーSensusなど各大手世論調査会社の作業結果に表れた肝心の信頼度も、急速に下降の一途を辿り始めた。
ルーラ現大統領には心ならずも厳しい言い方になり、筆者の独断偏見も多少入るかもしれないが、その再選を困難にさせ阻みそうな否定的な材料には、事欠かないような気がする。理解を促すために、これから箇条書の形で具体的に指摘して行きたい。まず第一番目の否定的な材料は、今年の四月ごろから本格化しそうなルーラ大統領の再選運動を実際に指揮し、運営することになっていた最も重要な参謀役たちが今回の不正汚職事件に連座した疑いを掛けられ、退陣を余儀なくされてしまったことである。ジョゼ・ジルセウ前官房長官、ルイス・グシケン前政府広報戦略担当大臣、ジョゼ・ジェノイーノ前PT党首、ルダ・メンドンサ前選挙PR総括者らで、いずれも前回の大統領選挙でルーラ初当選の立役者たちだった。
 その中で、マキャベリズモ(権謀実数)型を地で行き、一九八〇年に結党され、ずっと苦節二十余年の野党生活を続けてきたPTと、金属工から身を起こしてその指導に当たったルーラ党首に「大統領の椅子」という、かつて味わったことのない勝利の美酒をプレゼントしたジルセウ前官房長官が閣外に去り、あまつさえ、一連の不正汚職事件の首謀者の容疑をかけられ、下院の本会議で予想を上回る賛成票を得て、これまで有してきた議員資格を剥奪され、十年間に亘って立候補などの公職権を奪われたことは、特に大きな痛手だ。本人は、出来れば政治活動を止めることなく、ルーラ大統領の再選などの手伝いをしたいと公言している。

■前官房長官の追放

単に選挙の作戦を立て、指揮して行くだけなら、全国に四千六百近い党支部を有する同党のことだから、いまだ発掘、活用されていない人材の中から、場合によっては、ジルベルト・カルバーリョ大統領事務室長などの逸材で代理起用が利くかもしれない。しかし、陰の大統領とすら称され、実際にカズイズモ(憲法上の上手な抜け道)というか、チカーナ(法律上の勝手な解釈)というか、兎に角、縦横無尽でしたたかで多彩な策謀や計略に賭けては、前官房長官の場合、余人を以って替えがたいものがある。ただ、政治追放後の扱いが微妙だ。一連の事件の内幕を知り過ぎているという理由で、彼をトカゲの尻尾切りみたいに冷たくあしらうと、プラナルト宮に牙を剥くだろうし、それを怖がって身近に置いておけば、逆に大統領のイメージを損ねることになりかねない。
 第二番目の否定的な材料として指摘しなければならないのは、ジルセウ方式(スキーム)と言われ、又、ジルセウ人脈とも言われる選挙資金集めのための独特のルートが失われることだろう。この個人、法人組織をうまく織り込んだ選挙集めのためのノウハウは、前官房長官をして、時の政権と与党を巻き込んだ一連の不正献金事件の指揮を取らせ、その頂点に立たせた張本人と伝えられ、なかなか一朝一夕には構築できそうにない。前回の選挙では、まず、ミナス州で広告代理店を営む政商まがいの男がしかるべき保証人を立てさせ、融資の形で高額の資金を銀行から借り受け、PTの金庫番に手渡すという常套手段が使われた模様だ。それが次第に無制限に拡大して行って、遂にはブラジル銀行の言わば公金を迂回させた後、同じくPTの資金源とした容疑もある。
ルーラ政権が発足する迄のPTは、元々、オニブスとかリッショ(塵芥)とかビンゴに強い政党だと言われ続けてきた。太くまとまった資金ルートをまだ築けなかったために、この労働者たちの政党は、既に傘下に置いていた地方自治体などからの細々とした政治献金に頼らざるを得なかったのである。一連の不正献金事件を摘発しかけて二〇〇二年一月に暗殺された疑いのあるサントアンドレ市の故ダニエル市長とか、リベイロン・プレート市のパロッシ市長(現蔵相)時代にPT系の地方自治体から寄せられた資金が殆どオニブスの運行やビンゴの開店や塵芥回収業の許認可に伴ういわく付きのものだった。また、市長当時のパロッシ蔵相には、約三百万ドルに上ったと見られるキューバからのPTに対する秘密の政治資金を受け取り、洋酒の紙箱に詰め込んだまま、サンパウロの党本部への搬送に一役買ったのではないかという容疑もかけられたりした。

■フォーゴアミーゴ策

 次にちょっと長くなるが、ルーラ大統領の続投に否定的な第三番目の材料を経済政策の面から指摘しなければならない。市長職を任期切れ前に辞任し、大統領選挙の陣頭指揮を任され、そのまま政権引継ぎチームの責任者格に横滑りして実力を蓄えて入閣を果たしたアントニオ・パロッシ大蔵大臣は、PT政権の発足以来、ジルセウ官房長官(当時)と共に、インベンシーヴェル(無敵の男)で幸運な政治家と言われ続けてきた。ジルセウ氏に前官房長官の肩書きが付いた後で、蔵相が益々強固な立場を築けるのかと見ていたら、どうもそのようにはうまく事が運ばなかった。故郷に住んで元地方公務員である母親からいつも「争いを避けて謙虚に、目立たないように」と、処世術を教えられてきているらしい蔵相の前にも、予期せぬ落とし穴みたいなものが待ち受けていた。
今年の大統領選挙で、何とか念願の再選を実現するには、これまでの高金利や基本財政黒字の目標達成に軸足を置いた超引締め型の経済政策の続行では、到底戦いにくいと判断した大統領自身の多分深謀遠慮ではないかと思うが、ロウセフ後継官房長官を蔵相の新しい好敵手に仕立てて対峙させ、閣内対立と抗争の火種を生んだのである。こういうことは、俗に政治用語でフォーゴ・アミーゴ(友軍からの砲火)と言ったり、フリトゥーラ(魚かバタタのカラ揚げ)みたいなものにして閣外へ追い出す手段である。勿論、大蔵大臣にも、それなりの意地とプライドがある。ルーラ政権の発足前後に国際金融社会を覆っていたブラジル経済の混乱に対する不安を高金利と基本財政黒字の目標達成という引締め政策で無事乗り切り、信頼感を繋ぎ止めることができたという自負である。

■引締め策がマイナスに

引締め政策の結果、インフレを低目に抑え経済を安定させながら、輸出を促進し、四百億ドルを越す史上最高の貿易黒字の計上に加え、経常収支が好調な余り、産業界から厳しい批判を浴びた異常なレアル高、ドル安の為替相場さえ副産物として生む結果となった。引締め政策と逆行するような政府の予算面からの出を出来るだけ封じ、入りを図り、払うべきもの(政府の借金の利子)をまず支払うという責任を果たせば、国際金融社会からの信用を繋ぎ止め、内外からの投資も増え、やがて本格的な経済成長に結びつくと言うのが蔵相の基本的な考え方であると判断される。ご参考までに、昨年のインフレ目標が年五%前後、それを達成するための政府の政策金利が年十八・五0%(十一月現在)、基本財政黒字目標がPIB(国内総生産)比で年四・二五%、そして、肝心の経済成長が年三・四〇%台と設定されていたが、実際には二・五%止まりといった悲観的な見方も出ている。
 基本財政黒字の目標達成は、言わばブラジル政府が借り入れている債務の利子を滞りなく返済する能力があることを内外に対して、指し示すための指標だと考えられる。ただ、基本財政黒字の目標達成と高金利と言う引締め政策は、経済成長―雇用促進―所得分配―貧困対策―般国民からの支持、と言った選挙の年に是非描きたい図式に逆行し、大統領選挙を戦いにくくさせ、再選続投を困難にさせる恐れがあるから、ロウセウ官房長官をして「蔵相の経済政策は、ルジメンタール(初歩的)である」と発言させたものである。最貧困者層に月額六〇レアルの家族援助手当てを支給する以外に、実(即)効性を有する社会政策を打ち出させないでいるだけに、選挙を目前にした現政権への風当たりを一段と強くさせる。
ロウセフ発に腹を立て失望もした大蔵大臣が辞表を二、三回提出し、政界財界が大騒ぎに巻き込まれた。その結果、大統領自身が「蔵相は、イムプレシンジーベル(必要欠くべからざる)閣僚である」と甘い言葉を発し、直接火消しに乗り出さなければならなかった。しかし、大統領の実際の腹の中はというと、異常な金利高も基本財政黒字の目標達成も本当の実力以上のレアル高も、そろそろいい加減にして欲しい、もう少し経済成長面と雇用の促進、所得の分配に目を向けて欲しい、そうでないと、再選が狙えなくなるといったところで既に固まっていそうな気がしてならない。

■5%台の成長率を

信頼できる筋の伝えるところによれば、選挙戦がいよいよ活発になる来年四月から九月までの一番大事な時期の経済成長率を少なくとも五%台に持って行ってくれ、基本財政黒字の目標をしばらく四・.二五%以上に維持するのは良いとして、その代わり二十億レアル程度の予算支出を年初に認めてくれ、と言うのが大統領から蔵相への至上命令だそうである。実際は、昨年第三四半期の経済成長率が大幅に落ち込むなど、大統領選挙を一段と戦い難くさせる経済状況になりつつある。今は小康状態を保っている蔵相対官房長官の確執やら角の突合せで、もし二者択一を迫られる事態になれば、多少迷う様子を見せながらも「ロウセフ女史に残って貰いたい」と、最後の審判を下すのではないか。どうもその日は、そう遠くなさそうな感じがする。
ルーラ現大統領は、比喩の名人だと評される。そういえば、大衆を前に演説をしたり、記者会見をする場合、好んで政治の世界とフットボールの世界を喩えることが多い。しかし、大抵、喩えるのは、フットボールの事柄にほぼ限定されるから、比喩の奥行きは、そう深いとは言えない。パロッシ蔵相が閣内で必要不可欠な人材である点を強調しようとした時も、「同蔵相が辞職することは、スペインのバルセローナ・チームで大活躍するロナルジーニョガウーショ選手を途中交替させるようなものだ」といった意味合いの喩え話をしたが、早速、Folha紙のロッシ記者がそのコラムで「この比喩は、ナンセンスだ。パロッシには確かにいくつかの特質があるが、ロナルジンニョを特徴付ける創造性が(彼の経済政策には)最も感じられない。また、彼のチームも、ルーラ大統領のチームより限りなく優れている」と、辛辣に書いていた。
 そろそろ第四番目の再選に否定的な材料に移ることにしたい。ブラジルの政治の歴史上、PTほどの急進的な社会主義を標榜する政党の登場は無かったが、保守系と革新系の間のアウテルナンシア(政権のたらい回し)は、常に行われてきた。今年の大統領選挙も、結局は政権の座に就いた後、急速に中道色を強めたPTを中心に、PSB、PC Do Bといった革新系の陣営とPSDB、PFLを中核とした保守系の陣営の対立、それにいつも強い側に擦り寄り、自由自在に変色をするカメレオンに似た党色を身に纏い、フィジオロジズモ(利権誘導主義)の塊みたいなPMDBがガロチーニョ前リオ州知事を独自の候補として担ぎつつ、どっちに付くか最後の段階で決めるという形勢で選挙戦に入って行くような感じがする。
ロッシ記者と同じフォーリャ紙の第二面で政治コラムを担当している敏腕のフェルナンド・ロドリーゲス記者は「九八年のコーロル候補のように野心家の見本みたいな風雲児が突然変異みたいに現れれば、この右と左だけの政権のたらい回しも断ち切られ、新風の吹き込まれる可能性も有り得る」と予想しているが、もう時期的に少し遅いのではないか。選挙民がPTに飽きたのであれば、当然の如くPSDBを中心とした勢力への交互の政権のたらい回しということになる。もう一つ、注意を払っておかなければならないのは、ルーラ現大統領が出馬を断念しなければならないような事態が発生しないかどうかであるが、不正汚職事件が新事実の発見でこの先さらに燃え盛り、大統領がインピーチメント(政治弾劾)に追い込まれたり、余程の健康上の問題が起こらない限りまず大丈夫だろう。政治弾劾をやるにも一年以上の長丁場を必要とする。

■セーラ市長の去就

 サンパウロ市のジョゼ・セーラ市長(PSDB所属)は、今年の大統領選挙には出ないと言い続けてきた。出ない理由として、まだ市長に当選しやっと一年になったばかりで、市政面で遣り残したことが余りにも多く、任期一杯完投する公約を選挙民としている。しかし、それは、自分から先に出馬したいと言い出せば、不利になるという政治家の単なるゼスチャーであって、結局、選挙民から待望論やらお呼びがかかれば、最初は処女の如く、後は脱兎の如く飛び出して行きそうな気がする。
その理由は、要するに、PSDBを中核とした保守(中道)系の中からは、一番、ルーラ現大統領の再選を阻止、勝てる条件を備えた政治家だからである。セーラ市長の他、PSDBには、アウキミン現サンパウロ州知事、アエシオ現ミナス州知事の立候補、また、FHC前大統領の再出馬、あるいは、PFLに所属するセーザル・マイア現リオ州知事の名前も噂されているが、前回の戦いで、PSDBのセーラ大統領候補がセグンド・トゥルノ(第二次投票)の段階まで進出して善戦した実績と世論調査での高支持率が大きい。結局、アウキミン知事を上院議員選へ出馬させ、FHC前大統領を三顧の礼で何とかサンパウロ州知事選へ担ぎ出しそうな気がしてならない。
 今年の十月一日の大統領選挙にも、有象無象の候補者が十人近く名乗りを挙げることになる筈である。普通なら現役の候補が強いのは、ごく常識であるが、昨年の半ば頃からルーラ大統領とPTの足許に強くまとわり付いて離れようとしない例の大型不正汚職事件とパロッシ蔵相主導の引き締め型の経済政策がまずマイナスに響くだろうから、ルーラ現大統領がいくら経済面での実績をうたい文句にしても、第一次投票(予選)の段階でやすやすと一発で勝負を決め、再選を手中にすることは、まず有り得ないと見たい。何しろ、第一次投票の段階で早々と決着をつけるには、全有効投票総数の絶対過半数(五十%プラス一票)を獲得する必要があるからだ。それができないと、上位二者だけに絞って第二次投票が実施され、雌雄を決することになっている。
そこで、第二次投票(決選)の段階で、ルーラ対セーラのか顔合わせが実現した場合のことだが、殆どの世論調査の結果では、セーラ候補が四〇%台の前半を記録しているのに比べ、ルーラ現大統領の方は、三〇%台の後半に留まっている。また、大統領に対する拒否率(どんなことがあってもその人に投票しないという)が四六・七%もあり、今後のその支持率の伸び悩みを示唆している。大型不正事件の発生後のルーラ大統領は、相当長い期間にわたって「知らぬ存ぜぬ」を貫き貴通そうとし、それが出来ないと判断するや、外遊先のパリで随行の記者団に対し「いわく付の資金を選挙に使うことなんて、どの政党でもやっている日常茶飯事ことだ」と、開き直った。
外国旅行がことのほか大好きで、日常の行政面の仕事は、殆ど他人(各大臣)任せと評され、これらにもやがて選挙民の厳しい批判の目が向けられる違いない。これから山あり谷あり、さまざまな紆余曲折と多くの試練が待ち受けている。一般有権者は、普段、ブラジリアの政治のことに無関心を装いながらも、見るべきものなら案外ちゃんと注意を払っていて、見逃さないものなのだ。それが即ち第五番目にして最後のルーラ現大統領の再選に否定的な材料である。