「ニューヨークのツインタワーが崩れ落ちた時、日本の仇をとってくれたと思って嬉しかった」。9・11同時多発テロにコメントする、ある年配女性の言葉を聞いた時、祖国を愛するということは、どういうことか――と考えさせられた▼先週、匿名を条件に話を聞かせてもらった戦前移住者の女性は憂国の士だった。「日本だって罪のない人々が原子爆弾でたくさん殺されたから、仕返ししてくれたと思った。だからビン・ラーディンの話を聞くとドキドキするんです。捕まったら酷い目にあうんじゃないかって」▼彼女の義父は臣道連盟の一員としてアンシェッタ島で毎日むごい拷問を受けた。夫もまたDOPS(政治経済警察)に捕まり、数年間を監獄で過ごした。祖国愛ゆえに耐え忍ばなければならなかったその姿が、キリスト教世界全盛の世の中で、イスラム信仰ゆえに行動に及んだビン・ラーディンの姿とどこか重なるようだ▼国に誇りをもてない若者が多くを占める今の日本で、こんな話をしたら極右・国粋主義などと誤解されやすい感情表現ではないか▼祖国愛とは、外国人に囲まれて暮らす移住者にとって、とてつもない郷愁を伴って純粋な感情として心の中に結晶化する。つらい状況であればあるほど強化され、激しい形をとる。まして戦時下という極限状況なら・・・。〃日本の仇〃という発想もそこから生まれたのだろう▼『ハルとナツ』放映後に古参二世から聞いた「あそこに出てくる勝ち組の話なんて現実に比べれば全然たいした事ない」との言葉が耳にこだました。(深)
05/12/01