健康広場
2005年11月30日(水)
予防接種を一度受ければ、生涯病気にかからないと誤解している市民がいるかもしれない。定期的にワクチンを接種しなければならないものもある。その一つが破傷風(tetano)だ。口唇や手足のしびれといった神経系の疾患で、重症化すると全身けいれんを起こして死に至る。十年ごとの追加接種が求められるが、高齢者になるほど忘れてしまいがちだ。破傷風の発生件数自体は近年ぐんと減少しているとはいえ、追加接種を徹底させるため、特に六十歳以上向けの啓蒙を行っていかなければならないという。
日系団体の会議後の懇親会で、破傷風の予防接種を受けているか否かについて聞いて回った。六十代の日本人男性が「あれ、いつだったかなぁ。もう当分、やっていないけど……」と頭をかいた。
もちろん、この男性はそれが致死性の病気だと認識していた。日々の生活に追われて、ついつい保健所から足が遠のいた。「帰宅したら、注射の接種歴をチェックしてみなければ」と、顔が青ざめていった。
破傷風は嫌気性細菌の破傷風菌がつくる毒素によって、激しい筋肉のけいれんが起こる疾患。この菌は全世界の土壌中に広く分布し、主に傷口についた土などから感染する。
さびたり汚れている物体によって受けた切り傷や、くぎを踏んでしまったために受けた深い刺し傷などから感染することは周知の通りだ。特に、傷口に木片や砂利などの異物が残っていると発病しやすい。
最もよくみられる症状は、開口障害。あごのこわばりで、口が開きにくくなる。さらに病気が進むと硬直感が手足に広がり、胴体が前に出て体全体が弓なりに反る「反弓緊張」という姿勢がみられるようになる。
この時点で診断が遅れて抗毒素の注射がされなければ、約四割(新生児では八割)が死亡。治療が手遅れとなる確率が高い。
「予防接種は義務ではないけど、やっぱりやっておいたほうがよいですよ」。大久保拓司日伯友好病院院長は表情を強張らせて、未接種の人や前回の接種から十年以上経っている人に警告を発する。
「知人の母親(日本人)が以前、歯を抜いたんです。そうしたら、傷口から破傷風に感染し、予防接種をしていなかったために、間もなく亡くなってしまいました」。
保健省のサイトによると、発症件数は一九八二年に二千二百二十六件だった。二十年後の〇二年には六百件まで減少した。
生後すぐの乳幼児を保健所などに連れていって、三種混合(破傷風・ジフテリア・百日咳)の予防接種を受けさせる習慣が広がってきたためだ。
これからは、成人後、特に高齢者の追加接種をどう徹底させるのかが焦点になりそう。というのは、未接種の高齢者が破傷風を発病して救急病棟に駆け込んだ時、加齢に伴う一時的な症状だと誤診されてしまう危険があるからだ。
追加接種は三回に分けて行われる。三回の注射を受けて初めて、ワクチンの免疫効果が出る。保健省は毎年、高齢者向けに流行性感冒の予防キャンペーン(六十歳以上は無料)を実施。同時に診察に訪れた人の接種歴を調べ、該当者には破傷風の追加接種を受けるよう指導しているという。