2005年11月24日(木)
マット・グロッソ州のインジオ保護区に養蜂技術とプロポリス作りの基本を伝えようと、EXPROプロポリス社代表・在津久さん(60)=サンパウロ州=ら「ブラジル有用生物資源研究会」の二人が十月末に同地に滞在し、指導を行なった。「ハチミツ、プロポリスの有効性に気付いてもらい、生活に役立ててもらえれば。いずれ特産品になれば、経済的自立にも繋がるはず」と在津さん。手厚い保護を受けるインジオの消極的な労働意欲や、採集・狩猟とは異なる「飼育」の概念が受け入れられるか―課題もあるが、「来年には生産リーダーを自分のところに呼んで実習してもらおうと思っている」と意欲を示す。
マット・グロッソ州の州都クイアバ市から八百キロ。パラー州境に近い場所に、シングー族インジオ保護区はある。
「意外に開けているので驚いた。公衆電話も設置されていた」
日本の非政府組織(NGO)の「熱帯雨林保護団体」(本部・東京都、南研子代表)が継続的に支援している。同団体の要請を受け、日本政府が「草の根無償資金協力」を供出、今年三月にはポルトガル語やコンピューターを学ぶ学校が開校した。
今回の計画も、同団体からの依頼をきっかけに動き出したものだ。養蜂についての一般知識から、抽出液や軟膏などプロポリス製品の作り方を教えた講習会。四日間にわたった。
初日は十三人が出席、二日目は五人に減った。
「出席してもお金がもらえないから」。それが欠席の大きな理由だと聞いた。
貨幣経済の浸透。ショックだった。「原住民であることを主張することで金品を容易に獲得できる。労働意欲がわかないのも無理がない」と思った。
自然と関わった仕事に従事する有志が集まり情報交換している「ブラジル有用生物資源研究会」会長の在津さんだが、インジオとの本格的な交流は初めて。
心強いパートナーが同行してくれた。研究会のメンデルソン・デ・リマさん。プロポリス研究の博士、自然保護活動に長年携わってきた人で、インジオ研究調査の権威オルランド・ヴィラスボアス(故人)に師事したこともある。
研究会を代表した二人が考えたことは、次のようなことだ。
食料としてのハチミツ、薬効のあるプロポリスが、身近な自然資源の活用からできることを知ってもらい、生産に励んでもらう。余剰分は、容器に木の実や焼き物を利用するなど、インジオの伝統文化を反映させ、いずれ製品化する。
「経済的自立の支援になるなら、販売協力も惜しまない」つもりもある。
だが、現金収入に至るまでの道のりは決して短くない。技術の向上、持続的な世話のためには労働意欲が大切だが、原住民であるという「権利」を主張し、さまざまな支援や保護を受ける現在のインジオに求めるのは難しい面も。
また、彼らの本来の生活様式である狩猟・採集と「飼育」の概念がそもそも一致しない。
サンパウロ州の養蜂協会が以前に指導を実施し、蜂は国立インジオ保護財団(FUNAI)が与えたが、生産が軌道に乗らなかった前歴も。
それでも、保護区の養蜂リーダーの男性は、プロポリスの製品化を熱心だ。かつて自分の娘が熱湯で火傷した際、プロポリスで完治したという過去がある。
「今回の講習会でも、彼と三人の息子は熱心に最後まで実習してくれた」
来年一カ月間くらい、リーダーを自分の養蜂場に呼んで学んでもらう計画があると在津さんはいう。
「一人でも彼のような人を育てることができればいい。そのうえで、伝統文化を生かした形での製品化が進むことを願っている」