2005年11月18日(金)
NHK番組ハイビジョン映像祭が十六日午後四時半からサンパウロ市のワールド・トレード・センター内で行われ、元NHKプロデューサー相田洋(ゆたか)さんの講演をはさんで、午後十一時半まで約二百人は美しい高画質映像を楽しんだ。
最初に上映されたのはドキュメンタリー『移住三十一年目の乗船名簿』(八七分、ポ語ナレーションと字幕)。一九六八年に出航したあるぜんちな丸の第二十九次南米移民百三十六人の姿を移住時、十年目、二十年目、三十一年目に取材したもので、重層的に移民の人生を語りかける構成になっている。
同作品のプロデューサー、相田さん自身に中国からの引揚げた経験があり、あるブラジル移住経験者の「船の中は竜宮城のよう」という説明を聞き、そんなはずはないと考えた。実際に移住船に同乗した経験をもとに人生の明暗を描き、第一回芥川賞を受賞した小説『蒼茫』(石川達三著)を「日本の記録文学の最高峰ともいわれている。それをテレビでどうかと思った」と動機を語った。
「十年たったら来てくれよ。その時までにはなんとかなっているから」。船を下りる移住者たちからそう呼びかけられたのがきっかけとなり、十年ごとに来伯して取材する。
「移住事業団が見せたくないような移住の光と影まで、全体を描きたい」という意気込みで取り組んだという。
叔父がアマゾン移住していたことは知っていたが、取材の過程で知りあい深く興味をもったある移住者が叔父と同じベラ・ビスタ移住地にゴム工作移民として入っていたことを知り、不思議な出会い、強い因縁を感じたという。
六八年、取材が終わったあとマナウスに叔父を訪ねた。「叔父と伯母の話を夜が明けるまで長々ときいた。大変面白かった」と振り返る。その詳しい経緯が著書『航跡 移住三十一年目の乗船名簿』(〇三年、日本放送出版協会)に一章を割いて書かれている。
九六年、取材しようと思った矢先に、妻と心中をしようとして撃ち殺してしまった移住者もいた。「大変長い間、話し合った」。
景気のいい時はみな話したがるが、そうでない時は「イヤだ」と拒否されることもある。「じっくり話をする中で、同船者だからしょうがない、撮らしてやるか」という合意に達することも多かったと振り返るなど、約二時間にわたって取材時の濃密なやり取りや裏話を披露した。
最後に、主催者やウィリアム・ウー市議(セーラ市長代理)らがあいさつ、鏡割りした。ドラマ「ハルとナツ」第一話もハイビジョンで上映された。