グルメクラブ
2005年11月11日(金)
色男のプレイボーイで実業家、加えて〈貴族のスポーツ〉ポロの選手、リカルジーニョ・マンスールが、リオ・ペトローポリス産ビール、イタイパヴァのTシャツを着ていた。
最近、その写真を複数の週刊誌で見かけた。イタイパヴァが彼のポロチームのスポンサーになったらしい。ちょっと前は、フランスのシャンパンメーカーだったはずだけどな。
美女の独禁法違反の疑いで身柄を拘束したいくらいのモテ男だ。メディアに登場する機会も多いし、宣伝効果は抜群なのだろう。
たださ、マンスールがもしサッカーの選手だったら、どうかな? イタイパヴァは手を挙げていなかっただろうね、多分。
王室ゆかりのペトローポリス産はうちだけと自負。そのラベルに堂々と王冠マークまで印刷している。〈貴族のスポーツ〉じゃなければ、企業イメージとつり合わないよな。
あれ、でも待てよ。ペトローポリスには、ボエミアもなかったけ? と思って調べてみたら、一九九七年にリオ・ジャカレパグアーへ移転している。
その記事によるとさ、ボエミアが去ると決まったとき、イタイパヴァの幹部連中は狂喜乱舞したそうだ。これからは「唯一」と名乗れると。
リオから七十キロ、王室の避暑地ペトローポリスでドイツ人技師がビール造りを開始したのが一八五三年(余談だが、この年、地球の反対側でも、兵庫県出身の蘭学者が『日本人による初醸造ビール』を手掛けている)。それが、のちのボエミアで、工場は「王室御用達」の称号を授かった。
だから、八年前のボエミア工場移転によって誇りと雇用を一気に失った地元住民の衝撃の深さは計り知れなかった。
と思ったが、売上げ好調のイタイパヴァがすぐにその喪失感を埋め、今では余りあるらしい。
清冽な川から汲まれる、ビールに適したおいしい水を利用。「王室御用達」高品質ビールのボエミアを生み出した、恵まれた土地を「引き継いで」生産している。素材と素性の良さのアピールに大成功し消費者の心を捕らえている。
その缶容器にもこだわりをみせる。飲み口の部分が銀紙のふたで覆われ、清潔感がある。値段は一レアル前後にも関わらず、シルク製の手袋をはめたプリンセスのような気品さえ漂う。
なにせラベルに王冠印だ。大衆の消費行動に与える影響は大。「王室ゆかりの地」のビールという絶好のウリ文句が、ボエミアからイタイパヴァに「譲渡」されたことは、業界の革命だった。
いや、あまりにもすんなり移行したのだから、これを「無血革命」といってもいいんじゃないかな。
と君主制から共和制へ移行した記念日である十一月十五日の祝日を前に思うのであった。