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コラム 樹海

 きょう十二日はブラジルの守護神ノッサ・セニョーラ・デ・アパレシーダの祭日だ。サンパウロ市から百七十三キロのアパレシーダ・ド・ノルテ市は、一七一七年に三人の漁師が高さ三十九センチの黒い聖母像を見つけたころは、イタグアスーとよばれるただの田舎町だった▼現在の新教会は一九五五年から建設開始、八〇年に故教皇ヨハネ・パウロ二世によって認められた。聖母マリアを祭ったものとしては世界最大規模を誇る。マラカナン蹴球場しかり、ブラジル人は世界一が好きなようだ。いまも未完成で、信者の寄付によって進められる▼先日、同地へいったとき、実は財布を落とした。中には現金と帰りのバスチケットも入っていた。日本からの客二人を案内しており、そのチケットも一緒だった。もちろん、落胆し、頭を抱えた。等身大のロウソクをあげたご利益もなかったな、と不遜にも聖地で一人ぶつくさ言っていた▼バスターミナルで念のためと思い、バス会社の職員に事情を話すと「そのチケットは何時で、何枚だ?」と聞き返してきた。なんでかと思いつつも「午後四時発で三枚だ」と答えた。「お前の財布はさっきここに届けられたばかりだ」「えっ、本当か」「ああ、貧乏だが真面目そうな奴が持ってきた。良い人に拾われたな」「こりゃ、奇跡みたいだな」と思わず口走った▼客には「今どき日本でも財布落としたら出てこないよ」と言われた。お礼を渡してくれるように頼んで帰りのバスに乗った。ふだんは信仰心のカケラもないが、その日ばかりは遠ざかる車窓から手を合わせた。   (深)

 05/10/12