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「液体のパン」も作って欲しい

グルメクラブ

2005年9月30日(金)

 わたしは探偵である。もちろんウソだが、例えばの話として聞いてもらいたい。
 ある人の素性を探って欲しいと依頼を受けた。
 分かっていることは、その人は早朝散歩する。途中、サンパウロ市のモステイロ・デ・サンベント(聖ベネディクト修道院)にいつも立ち寄る。普通に考えれば、とわたしは思った。
 その人は熱心なカトリック信者だろう。しかし、早急に決めつけることは出来そうにない。
 どうしてか。パンやケーキを買いに行っている可能性も浮上してくるのだ。
 聖堂内には売店があって、マンジョッカ芋のパンや乾燥フルーツのパウンドケーキを販売しているのだ。「秘伝」の製法で作られ、ずっしりとボリュームがあって、うまい。
 信者以外の顧客も多いから、やはり、カトリック信者とは限らないだろう。これで話は振り出しに戻ったわけだ……やれやれ。
 わたしはその修道院のファンである。これは本当だ。おいしいパンがあるうえ、たまにそこでクラシックコンサートが開かれたりもしている。
 あとはビールでも作られていれば最高だな。ベルギーやオランダの修道院には十一世紀来とされるビール醸造の伝統がある。アサヒビールのホームページによると、こうだ。
 「十二世紀になると、修道士がビールを作る理由は、彼ら自身のためだけではなくなってしまいました。当時おびただしい数の巡礼者や放浪者が修道院を訪れ、食事やビールの施しを求めてきたため、それに応じる必要がありました」
 修道士の集まりは頭脳集団であり、ビール醸造技術者の養成機関でもあった。 「古文書から得られるビール作りの技術を体系化、師から弟子へと秘訣を伝授し、試行錯誤を重ねながら質を高めていきました。その結果、一般とは各の違うビールが」出来上がった。
 それはトラピストと呼ばれ、現在はベルギーとオランダの修道院にしか残っていない。濃色の上面発酵ビールで果実味に富み、甘味のあるタイプが多い。
 一方、休醸中の修道院のブランドを借りて一般メーカーが醸造を手掛けている商品もある。それはアベイと称され、トラピストとは区別されている。
 アバディア。ポル語でアベイのことをそういう。最近クオリティーの高い新ビールを連発しているボヘミアがそのタイプのビールを限定発売して、雑誌などで盛んに宣伝している。
 修道院ビールの代表格といえばベルギーのシメイだろう。が輸入品なので、サンパウロ市内のバーに置いてあったとしても二十レアルから三十レアルが相場。
 庶民には縁が薄かったので、国産の登場は有り難い。「本場物」と比べればやや余韻に欠けるものの、お手頃価格で購入できるから、財布の中身を気にせずに賞味できる。
 新ローマ法王ベネディクト十六世の即位一周年には、モステイロ・デ・サンベントでぜひ記念ビールの生産を開始してもらいたい。ボヘミア版アバディアの売れ行きが好調なら、ブームに便乗し試作してみる価値は十分あると思う。
 中世ヨーロッパでは、ビールは「液体のパン」「パンはキリストの肉」という考え方があった。だから、修道士の間で盛んに作られた。ここらで「先祖帰り」して固体のパンだけでなく、「液体のパン」の方も手掛けて欲しい。

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