これまでにもチョイチョイ、当地西字紙上で取り沙汰されて来た話だが、始まって、もう約8年余りにもなる日本政府の円借款による「イグアス・ダム機械化プロジェクト」だ。いつまでも着工が具体化する様子が見られなないので、傍目(はため)にも一体どうなっているのか気懸りである。古いことだがこのプロジェクトについて筆者は一度の「ニッケイ新聞」(2012年2月4日付)に如何(いか)にも、もう直ぐ完成する様な調子の良い記事を書いたが、その後の進捗状況がどうも芳(かんば)しくないのである。
元々イグアス・ダムは、付近のパラグァイ最初のアカライ水力発電所(1968年末に完成、最高出力210MW)の電力供給ピーク時間帯に於いての発電能力の最効率化を図る為にANDE・電力公社が建設したものである。
このダム機械化プロジェクトに日本政府(JIBIC・国際協力銀行/JICA・国際協力機構)はパラグァイのANDE・電力公社に対し償還期限40年、据え置き期間10年、年利0・75%と言う大変好条件な一般アンタイドの214億20万円に及ぶ円借款を貸与した。(2006年2月16日契約)。
ついでに、細かい事を言う様だが同計画では出力103MWのカプラン水車二基を装備する予定である。因みにカプラン水車とはパ亜双国ジャシレタ水力発電所が採用している羽根の角度が調整できる同型式のタービンである。
一方、パ伯双国イタイプー水力発電所のタービンはアカライ水力発電所と同じ型式のフランシス水車を使っている。
遅れに遅れる着工と汚職
処で、この辺までの話しはマア良いのだが、問題は折角の円借款が決まってから未だに着工が予想以上に遅れている点にある。
もちろんその間、パ国側も何度か政権が変わったりした事もあるが、その度に付き物の「汚職愛好族」の都合で話がイジクリ廻されて、「透明であるべき話」もくすんで見えなくなって仕舞うのである。
この様な事情の中でカルテス新政権は、件のイグアス・ダム機械化プロジェクトは国益事業としての重要性を再確認し、日本側に同プロジェクトの維持継続方を要請した。
しかし、〃火の無い所に煙は立たぬ〃の喩(たと)えで、当地の最有力紙ABC・Colorは、『パラグァイに対する詐欺に無関心な日本政府』と題する10月29日付の社説であたかも日本政府は汚職のグル(共謀)になっているかの様に批判した。我々在留邦人としても心穏やかな話しではない。
有力紙が社説で日本政府をグルと批判
本プロジェクト策定に当ったのは日本最大手の日本工営㈱のコンサルタント(海外事業部)だが、これに対し当地の自称専門家連が、時間が経つに連れて日本工営のプロジェクトは施工方式に問題があり、金額的又は技術的にも実施不可能だと色々なケチを付け始めて切りがなかった。
この結果、日本側は如何に対応したかは分らぬが、工事仕様やコストの再考を呑んだのではないかと思われる。事実、工事予算は大幅に変更される可能性があると聞く。
問題は、言うなれば「日本人の外国人には弱い情けなさ」で、パラグァイ側のしたたか者の野心家連中に〃暗に陽に〃好い加減振り回されたのではないかと疑いたくなる。
これを裏付けるのが前述のABC紙の社説記事である。
その曰くは、「アカライ水力発電所の電力消費需要ピークの時間帯に於ける、電力供給能力の最効率化を補助する目的のイグアス・ダムの水力利用プロジェクトは、既に10年近くにもなる案件であるが、当初よりその計画の歩みに奇妙性が目立った。
不幸にして、この事業の周辺には〃ずるく立ち回る輩連(やかられん)〃が跳梁(ちょうりょう)していて、如何(どう)やら政府のトップ等と明らかに共謀しているらしいのだ。
日本政府は眼を瞑ったままでいいのか
この様な事態は件のイグアス・ダム機械化プロジェクトの管理・取り扱いに当り、日本政府が加担しているや否やの疑いを追及するに値し、加えて日本政府はその詐欺に共謀する愚を以って此れまでパラグァイで培って来た高い名声、信用やイメージを敢えて損なっても良いのかと聞きたくなる。
本件の如き優良な国家プロジェクトは云う迄もなく透明に取り運ばれるべき処、今までの推移を観察するに、裏には怪しからぬ複雑な利害問題が絡んいるのではと云われても仕方がない。
貴重な日本の借款に依るこのプロジェクトが斯様(かよう)に弄(いじ)くられているスキャンダルに日本政府は無関心に目(め)を瞑(つむ)っていてはいけないのだ」、と云う趣旨である。
これまでにも筆者は、パラグァイ政府の骨髄まで腐り切っている有り様を事ある毎に書いて来たが、今度はその腐敗振りが日本側にも感染した様なABC紙の記事なので、正(まさ)かそんな事はないと思うが、ここは日本側は断じて反駁(はんばく)し、事の正否を明らかにしなければならないと思われる。
日本は昔から移住事業に始まりパラグァイに対する有償無償の経済援助・技術協力は世界各国中ダントツで、日本人として大いに誇っても良い筈だ。
言うべきことは言うのが外交の鉄則
何もそれを鼻に掛ける事もないが、今回の様な場合は堂々と云うべき事は遠慮なく主張すべきである。黙っていては是認した事になり悪い前例(禍根)を残す。
昔の話だが、筆者が戦後間もなく移住振興会社㈱(JICAの前身)に勤めていた頃に良く言われた事は、「我々は日本の国民の〃血税〃のお陰で仕事をしているのだ。一銭一厘たりとも悪用してはならない」という金言だった。この鉄則は時代が変わった今でも依然として守られていて良い筈だ。
日本も今は自民党の安倍政権になって戦後レジューム脱却の施政方針が打ち出され、正面(まとも)な日本を取り戻す気運にあるが、それは世界で日本の国力に相応した当然の地位を国際的に正しく発信する以外の何物でもない。
元来お人好しで押しの弱い日本人は、したたかな国際社会で竹島、尖閣島や北方領土などの問題で〃甞められっ放し〃だ。
昔だったら海軍の古い駆逐艦が一隻か二隻、その辺に浮かんでいるだけでも睨みや抑止が利いた筈だが、戦争は負けるものではないとつくづく思う。
渡部和男駐パ大使の〃最後通牒〃
また古い話で申し訳ないが(2011年2月28日付日系ジャーナルの記事を一部引用)、『・・・ 筆者が貧乏学生時代に脱腸の手術で大変お世話になったUNA・アスンシォン国立総合大学医学部付属慈善病院(Hospital de Clínicas)の老朽化が著しく、サンロレンソ市の同大学キャンパス構内に新築移転するプロジェクトが浮上し、日本政府はこれに対し1・600万米ドル相当の円建て無償援助を時のニカノル・ヅアルテ・フルトス大統領が日本を公式訪問(2005年10月)した際に正式に決定したニュースを聞いて、筆者は昔の恩もあり、大喝采したのだった。(因みに当のイグアス・ダムのプロジェクト資金もこの時にお土産に決まった)。
然し如何した事か、南米でも有数の近代医療施設として誇れる折角の慈善病院が、パラグァイ側の怠慢で其の後何時まで経っても完成しそうもない。
何度も日本側は苦情を申し立てたが〃暖簾に腕押し〃で大した反応も無かった処、当時の渡部和男駐パ大使(現コロンビア大使)はフェデリコ・フランコ前臨時代理大統領の外に、衛生福祉大臣や医科学部長等と共に未完の病院現場を視察し、既に3年余りも落成が遅れている現状を正に検証した。
そして、日本側の不満を単刀直入に表明し、「この上は如何なる説明も弁解も不要である。義務をトックに果たした日本側は、唯一早急なる病院の完成を待つばかりである。日本人は忍耐を徳とし小官も例外ではないが、物事には限度がある」とフランコ前臨時代理大統領に〃最後通牒〃を着き付けた。
これを聞いて、いつも日本の弱腰外交に歯痒い筆者は久し振りに胸がすく思いだった。
なお、パラグァイ当局を面食らわせたこのハプニングは早速マスコミの格好なネタとして主要各紙のトップ記事になったが、一様に「パラグァイの恥じ」、として「良くぞ渡部大使はふざけたパラグァイ政府に熱いお灸を据えて下れた」と言う論調であった…』。
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