グルメクラブ
2005年9月16日(金)
サントリーの広告「トリスを飲んでハワイに行こう」が一世を風靡したのは六〇年代である。それは山口瞳の名コピーだった。
しかし、トリスの全盛期を知らないわたしは、小さい頃からハワイよりもフランスに憧れていた。
七五年にスタートしたテレビの人気クイズ番組「アタック25」の熱心な視聴者であったせいだ。当時の番組の幕開けを飾っていたエールフランス機が飛び立つ映像を目にするたび、憧れは募った。
番組で優勝し、海外旅行を賭けたクイズに正解すれば、「エールフランスで行く空の旅」がもらえた。八〇年代に入るまでの日本には、フランス旅行こそ庶民の夢であるという、そんな空気が漂い、「お」フランスと呼ぶ人もいた。
その後長じて海外には何度か出かけたが、「エールフランスで行く空の旅」は未経験だ。わたしにはいまだに高嶺の花だ。ま、でもホームページでフライトのサービス事情を確認するだけならタダだと考え、機内食について調べてみた。
ファーストクラスのメニューからチェックしてみると、気になる酒類はシャンパン、赤白ワインはすべてフランス産の高級品をそろえ、日本酒は真野鶴大吟醸を用意。ビールはフランスで最もポピュラーなクローネンブール1664かと思ってみれば、ステラ・アトロワと書かれてある。一三六六年来の伝統を誇るベルギーのビールだ。
日本酒は仕方がないとして、グルメ大国のフランスが、「国の看板」航空会社の機内食に他国の商品を提供しているなんてただごとでない。なぜだろう。
ステラは最近ブラジルにも上陸し、関心を集めている。実は、わたしも愛飲していたボエミアを裏切って、こちらに鞍替えしている。生一杯六レアル程度と国産の約二倍だが、値段に見合ったおいしさ。確かなホップの香りと果実味が長所だ。
既にサンパウロ州内で現地生産されており、先日はサンジョアン通りのバー・ブラマで飲んだ。ブラジルを代表する銘柄ブラマがウリの老舗で、外国のビールを頼むなど以前なら考えられなかったが、いまは店員が積極的に薦めてくる。ブラマもステラもいまは、同じ会社インターブリューAmBev(本社ベルギー)の商品だからである。
同社は昨年、ブラジルのAmBevとベルギーのインターブリューが経営統合して設立された世界一のビール会社だ。欧米、アジア、南米の有力ビール会社を傘下に置いている。今後も次々に新たな「刺客」を送ってくるに違いない。
国内メーカーはそうしたグローバル企業の戦略に対応できるだろうか。インターブリューAmBevが誕生したとき、スキンカリオール社は「うちは100パーセントブラジル」と宣伝し、対抗していた。
がそれを契機に、ヴァリグ航空がスキン社のビールを、積極的にサービスし始めたとは聞かない。変なプライドで純国産にこだわるより、飲んでおいしい商品がいいに決まっている。
そういえば、フランスのビールも味は……。エールフランスがステラを提供している謎が解けた。