健康広場
2005年9月7日(水)
イタリア・スペイン系コロニアは母国に比べて胃・乳がんの発病率が高く、逆に肺がんの危険は少ないという。国内と海外在住者に相違が現れるのは、生活環境の変化が大きな要因だ。各国コロニアの病気比較を行ったら、面白い結果が出るかもしれない。
日系人に顕著な病気と言えば糖尿病や前立腺がんだ。特に、糖尿病は深刻さを増している。一九九三年と〇〇年にバウルー在住の日系人を対象にした実態調査で、罹患率が男性四〇・六%、女性三二・四%に上った。
ブラジル人と日本人の平均は、それぞれ十%と七%。したがって、かなり高率になる。アメリカの日系人をみると、ハワイが一八・九%、ロサンゼルスが一三・七%。米国人の平均発病率が六%だから、結果はブラジルとあまり変わらない。
イタリア系が日系と同様に、糖尿病が多いとは聞かない話だ。パスタやオリーブ油に代表されるような食事は、糖質が多く脂質が少ない。欧米諸国の中で、最も健康的なものだとも言われる。
調味料として使われるマンジェリコンは、インスリンの分泌を促進。血糖値を抑える効果を持つという。百グラム当たりの成分分析では、リン(三百五十ミリグラム)、カルシウム(千百ミリグラム)、カリウム(三千六百ミリグラム)などが含まれている。
薬効は強壮、消化促進、高血圧、便秘などで、古来はミイラの防腐剤や香水にも使われていた。インド原産のシソ科の植物で、移民とともに十九世紀の末、ブラジルに入ってきた。
主なイタリア系コロニアは南部諸州に形成された。五十年ほど先輩のドイツ移民によって、良好な土地が占有されていたから、山岳地帯に入らざるを得なかった。周囲から隔絶されていたということは、移住前の食生活が維持できたとも考えられる。
イタリア系の夫を持つ武藤祥子さん(日本語教師、神奈川県出身)=モジグアスー=は「テンペーロと言えば、マンジェリコン。うちでも親戚のお宅でも、家庭菜園で栽培していますよ」と話し、食卓に欠かせないものになっている。
サンパウロから百七十キロの同市も一八九七年に、イタリア系によって開かれた町。今、三世、四世が働き盛りの時代だ。あまりにも当たり前すぎる植物だったためか、先祖が持ち込んだという認識は低い。
まして薬用植物としての有用性は、意識されてこなかっただろう。糖尿病に対する効果が分かってきたのも、古い話ではない。
工業王マタラーゾは、母国から料理人を呼んで伝統的な食事をつくらせていた。一族にこんな言い伝えがあったという。「健康は医薬品でははく、食事によって保たれる」。医食同源の精神だ。
もっともイタリア本国では現在、肥満が増えていると言われるが……。