2005年9月7日(水)
日本の名バイオリニスト、五嶋みどりさんのサンパウロ公演(1~3日サーラ・サンパウロ、4日イビラプエラ公園)を鑑賞した西林万寿夫サンパウロ総領事。ニッケイ新聞社の依頼を受け、その印象記を特別寄稿した。趣味のバイオリン演奏は玄人はだし。産経新聞(1995~1997年)、月刊誌「モーストリー・クラシック」(98~99年)に演奏会評を連載していたこともある。その眼からみた感想は。
―――――――― 五嶋みどりがサンパウロ州立交響楽団と共演、おまけに難曲中の難曲であるプロコフィエフのバイオリン協奏曲第一番を弾くというニュースが飛び込んできた。
これは絶対に聴き逃すわけには行かない。「みどり」は有名なバイオリン協奏曲を一通りレコーディングしているが、この曲は未だであり、興味津々である。
私はニューヨーク在勤中(1996~99年)、「みどり」を何度か聴いた。本人に会って話した事もある。あの華奢な体からよくもこれだけスケールの大きい音楽が創れるものだといつも感心していた。
「みどり」の名前は米国であまねく知られていて日本人の誇りである。知名度の高い日本人演奏家という点では、ボストン交響楽団を振っていた小澤征爾と双璧であろう。
ところで着任してから数カ月後だったら「みどり」を公邸に招くことが出来たのにと残念で仕方ない。次の機会を待つしかない。
さて本番であるが、第一楽章の出だしから早めのテンポと羽毛のような音色にびっくり。他のバイオリニストならもっとたっぷり響かせるところなのに、幻想的な解釈でユニークだ。
しかし曲が進むにつれて「みどり節」。全身全霊をかたむけて絞るように音を出す。その集中力は大したものだ。第二楽章は超絶技巧を要するのに、すさまじいスピードで難なく弾き切ってしまうところが凄い。途中テンポの落ちる部分では落とし過ぎ位でここまでやるかとの印象。終楽章も堂々たる熱演で、終了後、聴衆は総立ちとなり、「みどり」は何度も舞台上に引っ張り出されていた。
当日は「みどり」に感動しただけではない。サンパウロ州立交響楽団のレベルの高さにも驚いた。正直言って、当地に着任する前は、聴き慣れたニューヨーク・フィルやボストン交響楽団に比べれば、南米のオーケストラなんて大したことないんじゃないかと期待していなかったが、予想は見事に外れ嬉しい限り。
後半のバルトークの「管弦楽の為の協奏曲」はオーケストラの水準や個々のプレイヤーの技量を計るのにもって来いの曲であるが、結果は二重丸。ぜいたくを言えば、この曲はバルトーク最晩年の絶望の境地で書かれたのであるが、オーケストラの響きは終始明るめで、その点だけがやや気になった。
この辺やはり南米のオーケストラという事なのだろうか。でもこのオーケストラ、ぜひ何度も聴いてみたい。毎週行くのは無理だとしても。