グルメクラブ
2005年9月1日(金)
布団かなんかのテレビCMだったと思う、羽毛の量が通常より二倍多いことを強調していたのだろう、高見山が「ニバーイ、ニバーイ」と、不思議なイントネーションで宣伝していたのが忘れられない。
先日、国産ドイツ系のジン、ダブルWのラベルを目にしたとき、とっさにその響きを思い出した。
ダブル(W)は二倍の意だから、まさにこの酒は「ニバーイ、ニバーイ」になる。日本で売り出すときは、高見山にCM出演を依頼したらウケるはずだ。
なんだか古い話ばかりになってしまうが、むかし、森高千里という女性歌手がいた。ジンをベースにした缶入りカクテル飲料のテレビCMで、「ジンジンジン、コーラとジンでアメリカ人」と歌っていた。お国柄に合わせていろいろと応用が利く歌詞になっている。イギリス人の場合は、「紅茶とジン」だった。私見だが、ドイツ人なら「ビールとジン」だろう。
ドイツ人はビールの合間にキンキンに冷やしたジンの一種シュタインヘーガーを飲む。ダブルWがそれだ。アルコール度数は三十八度。小さなグラスに注いでぐっと飲み干せば、胃袋がジンジン熱くなる。で、ビールがより一層うまく感じるという具合だ。
トウモロコシや大麦麦芽、ライ麦といった穀物を原料とし、糖化→発酵→蒸留させた後、草根や木皮とともに再度蒸留させるのはその一般的な製法だ。
イギリスやオランダ産が有名だが、通常のジンとシュタインヘーガーの違いは、ジュニパー・ベリー(杜松の実)の使い方にある。前者はそれで香味付けるのに対し、後者はそれを乾燥後、粉砕し発酵させ蒸留機にかけるのだという。
第二次大戦後ブラジルに移住して来たドイツ人が、ダブルW(自分の姓名の頭文字からとって付けた)の生産を開始したのは一九六二年のことだ。彼の家族は母国でもシュタインヘーガーを造っていたので、その風味は本場さながらだ。二〇〇一年にはアメリカ・シカゴの権威ある機関からも推奨認定されている。
ルーラ大統領が就任直後、グランジャ・ド・トルト(大統領官邸)で開いた祝賀バーベキューで振る舞われたという逸話もある。その席で、これを大変に気に入ったキューバのカストロ国家評議会議長の元には後日、二ケース分のダブルWが届けられたそうだ。
十七世紀オランダで薬用酒として生まれたジンは、オランダ公が国王に迎えられたイギリスで普及、風味が向上し、アメリカに渡りマティーニなどのカクテルの材料としてその利用価値を高め、現在に至る。
ジンはいま、世界各国で生産されている。ドイツ系の多いブラジルではシュタインヘーガーが主流だが、ダブルWのほかに、ベコザやコステン、コロニアレといった銘柄を確認できる。
最後に、ジンの歴史を物語るとき聞かれる常套句。
「オランダ人が生み、イギリス人が洗練し、アメリカ人が栄光を与えた」
これにもし続けるなら、「ブラジル人が赤く染めた」と。ブラジルのジンは、労働者党のルーラが大統領就任祝いの酒に選び、共産系の御大カストロのお眼鏡にもかなったから。