2005年8月26日(金)
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十五日】サンパウロ州で携帯電話を利用した犯罪や、脅迫に見せかけた振り込め詐欺が急増している。警察の推測では一日百件以上の被害が出ている。これらは電話のみで、インターネットやEメールを含むと被害はさらに上るとみられている。いずれも顔を見られずに正体がバレないことと、被害者に考えるスキを与えず、心理的にかく乱させる巧妙な手口だ。
電話での脅迫による強制振込は数年前、リオデジャネイロ州のバングー刑務所の服役者が携帯電話で所内から被害者に死の脅迫をし、架空の口座に振込ませたことに端を発している。この時点から刑務所内での携帯電話の取締まりが厳しくなったが、実際にはいたちごっこで、囚人らは依然として携帯電話を所持して外部と連絡を取り合っている。さらに終日ヒマを持て余していることから新しい手口の犯罪のプラン作りに余念がない。警察は振り込め詐欺の指令は刑務所内から出ているとみている。
最も多いのが誘拐に見せかけた振り込め詐欺で、これまでの誘拐事件では身代金の交渉や金の受渡し場所の指定に数十回の電話のやりとりで日時を要したが、新手口は手っ取り早く稼ぎになるので今後も犯罪は増加すると推測される。
最新の被害の手口は被害者の夫に電話を入れ、妻を誘拐したと宣言、妻の服装や車種のほか、一番の決め手となる子供の名前を出して要求金額を口座に振り込むよう強要する。これらの情報はグループが手分けして親戚や使用人、近所から収集したもの。
脅迫された夫は、すぐさま妻の携帯電話を呼び出すが何度かけても話し中だ。実はグループの共犯が妻に電話し、同様の内容や子供を誘拐するなどと、故意に電話を長びかせ夫が連絡を取れないようにしていたのだ。妻に連絡を取れず不安に陥り、心理的にかく乱した状態になった夫に対し、犯人側は「殺害してこま切れの死体を送りつける」などお定まりの切札で、時間を限定して振り込ませるというもの。犯人も時間との闘いのため要求金額も五〇〇レアルから五〇〇〇レアルと安いが、夫の心理状態を見て一万から二万レアルを要求することがある。
このほか、首都第一コマンド(PCC)のメンバーや、あるいは単にPCCの名を語るグループが死の脅迫電話で振込や携帯電話のプリペイドの振込を要求する。これらは電話帳でピックアップした相手に無差別に電話してくる。犯罪関係者によるとグループで手分けしており、刑務所からもヒマつぶしに行っているという。これは五十件に一件ぐらい成功すれば良しとしているとのこと。いっぽうでインターネットやEメールを使った振り込め詐欺も急増しており、被害届けでは名誉き損、幼少年犯罪に次いで三番めにランクされている。
振り込め詐欺は日本でも「オレオレ詐欺」と呼ばれ、巨額の被害が出た。日本の場合は夫や孫を装って妻や祖母などからだまし取る手口が流行したが、ブラジルの場合同様、被害者に与える時間を与えずに心理的にかく乱するのは全く同じだ。当時の川柳に「オレオレと言ったら、女房が電話切り」というのがあった。警察では不審な電話は一度切り、冷静に対応するよう呼びかけている。ブラジルでは応待するとまず名前を聞かれるが、不審な相手には偽名を使って要件を聞き出す手段もある。本人ではないと悟ると計画を断念するという。