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コラム 樹海

 不良中年になろうと誘う、軽妙な随想を書く紀行文学の嵐山光三郎さんが、さきごろ、ブラジルに来ていた。最新刊の週刊誌に書いたエッセイをみて知った。下駄ばきでアロハシャツを着て着聖したという▼嵐山さんのエッセイの主題は「ブラジルの俳句」だった。長時間の機中で「海外日系文芸祭・作品集」を読んだ。紀行文だけでなく、俳句の批評もする。批評をしながら「移民の百年の生活」に思いを馳せてくれた▼大口六郎さんの句「人生の逃げ水を追ひ移民老ゆ」。「移民老ゆ」のひとことに、時間の厚みが込められている。さぞかし、いろんなことがあったんだろうなあ、と評。読んでいるうちに、ウーンと唸って、飛行機のシートに正座してしまったそうだ▼洞察もある。「ブラジルにいる日系人は、やたらと俳句がうまい。ブラジルで暮らすと、日本にいるより日本人になる」。さきごろのショー「日本人の心の歌」で、軍歌が圧倒的に歌われ、また人気も抜群だったのは、日系人が六十年以上も前の日本人のようだからだと思う▼嵐山さんは、現在の日本について「日系一世、二世が誇りに思っていたほどの人情社会ではない。信頼、友情、連帯、家族愛につつまれた古きよき日本は昔話である」とばっさり▼サンパウロ市滞在中、何人かの日系人と会食したようだ。その一人の大学教授は、好きな曲をきかれて「高校三年生」と素直に答えた。なつかしき「原種の日本人」に会って、やたらとコーフンした――エッセイの結びである。(神)

05/08/26