2005年7月23日(土)
「住民との寄りよい関係者犯罪防止に繋がる」――。JICAの公共保安・地域警察活動プロジェクトで警察庁生活安全局地域課から今年一月派遣された、徳田秀輝専門家(47、警部)。現在、サンパウロ州の交番制度確立のため、指導やマニュアル作りに励んでいる。サンパウロ市内で選定された八つのモデル交番の一つ、イジアノーポリス区にある軍警第十三大隊第二中隊管轄プラッサ・ロータリー交番で行われた巡回連絡研修の様子を取材した。
「巡回連絡での留意点は四つ。まず第一に――」。 二十日午前十時半。冷え込む寒さのなか、日本の交番制度や、巡回連絡の効果を説明する徳田専門家。
巡回連絡とは、事業所や家庭を戸口訪問し、コミュニケーションを図ることによって犯罪抑制を目的とする日本独自の交番業務だ。
灰色の制服を着込んだ約二十人の警察官は、交番新聞や警察官の顔写真入りの広報名刺を興味深そうに手に取っている。
その様子を頼もしそうに見つめるのは、プラッサ・ロータリー住民協会のジョゼー・ルイス会長。七年前に設置された同交番の建設に尽力した一人だ。
ブラジルでは交番の設置は行政ではなく、地域住民による経済的なものも含めた協力によって行われる。
この地区は歓楽街としても有名で、「ボカ・ド・リッショ」(ゴミの口)と呼ばれる場所もあるなど、決して治安が良いとはいえない。
「(交番の設置以降)治安はとても良くなった。警察官と住民の関係が密接になることにより、更なる治安改善につながるのでは」とルイス会長は、巡回連絡のシステム定着に期待する。最近も(警備用の)自転車を住民たちの寄付で購入したという。
「八つのモデル交番のなかでも、比較的地域住民の結束が強い地域」。JICAの村本清美技術担当はそう説明する。
一九九九年から〇一年の間に、日本から四人の専門家が派遣され交番制度のセミナーを行ってきた。
しかし、実際に日本の警察官がブラジルの交番制度に対し意見を出し、治安対策、人材育成、勤務指針のマニュアル作りを行うのは今回が初めて。世界的にもマレーシア、シンガポール、インドネシアに次ぎ四例目だという。
軍警では日本に警察官を派遣、十年ほど前から日本の交番制度を導入。現在、同州内にはブラジル特有のポスト式のものや移動式のものを含め、約二百二十の交番があるという。
徳田専門家の説明を受けた警察官たちは、二人一組になり、巡回を始める。普段行っている単なるパトロールではないため、最初警察官たちの表情にも緊張の色が見えたが、バールの店主や有料ガレージの管理人と話しが弾む警察官の姿も見られた。
訪問を受けた同地域で縫製業を営むアントニオさんは「昔は強盗や引ったくりが多かったけど、交番ができて治安はよくなった。(巡回連絡は)とてもいいと思うよ」と肯定的だ。
徳田専門家は、巡回連絡で「金融機関立ち寄り」という郵便局や銀行などを重点的にパトロールすることを挙げ、「警察官の姿自体が犯罪低下につながる」と説明する。
銀行強盗などが多いブラジルで有効なシステムとも思えるが、半年ブラジルでの生活を体験したうえで「実際問題、馴染みにくいのでは」と吐露する。
その理由として「市民が警察自体を信頼していないため、訪問時に警戒されドアを開けてもらえないこともありえる」とし、広報紙や掲示板などを活用し、理解を求めていく考えだ。
カウンター・パートであるモニカ・ボンデザン大尉は「新聞、テレビなどのメディアが紹介してくれれば、理解に繋がるのでは」と話し、「そのためには我々の地道な活動での成果を見せることが重要」と表情を引き締めた。
モデル交番の一つ、ベレン区のラルゴ・サン・ジョゼ・ド・ベレン交番では、公安市民協議会(CONSEG)が「住民への広報を担当、効果を挙げている」(徳田専門家)という。
モニカ大尉によれば、「ブラジルでも地域パトロールや慈善イベントの実施などの地域活動は行っている」。反面、システム化されていないため、軍警幹部の考えに左右されるのが現状のようだ。
「これから、交番業務のマニュアルを作成、それがシステム化できれば」と徳田専門家。残り一年の派遣期間に全力を注ぐ考えだ。