7月15日(金)
「持って行った本人と直接話してないけど、常識では、借りたものは返すのが本当―」。ブラジルからNHKに怒りの声を上げるのは、サンパウロ博物研究会の顧問を務める橋本梧郎氏(92)。九七年九月に放送されたドキュメンタリー番組撮影のため、ブラジル取材に訪れたNHK関係者に、資料や十六ミリフィルムなどを、あくまでも好意で貸したものの八年経った今でも、橋本氏の手元には戻っていない。
戦後間もなく発刊された邦字紙「南米時事」に自身の旅行記が掲載された紙面のスクラップ集や、現在では入手不可能な移民関係の書籍などもあるという。
NHKに対し、「知人などを通して何度も催促をしているんだけど・・・」と橋本翁。
十六ミリフィルムには、現在では、ダム建設により水没してしまったパラナ州のセッテ・ケーダス(七つの滝)も収められており大変貴重なものだ。なお、このフィルムは橋本氏の知人がNHK関係者に貸したものであることから橋本氏はさらに頭を悩ませる。
「(持ち主の知人からも)催促されたことがあるし、ずっと気になっている」と溜息を漏らす。
同氏の活動を同じ移民の視線から、NHK放送以前にも三十分のドキュメンタリーにまとめ、〇一年にもパタゴニアでのフィールドワークを記録したブラジル在住の映像作家、岡村淳氏は厳しく指弾する。
「(被取材者所有の)写真や資料はある意味財産。借りたものを返すのは、イロハのイ」と取材者側のモラルを指摘する。
岡村氏によれば、数年前、日本から来伯したフリージャーナリストがこの事実を知り、NHKに直談判の結果、日記など一部の資料は郵送で返却してきたものの、他に関しては連絡がない状態だという。
今月十四日、橋本氏の同意を得たうえで、NHKの視聴者窓口「ふれあいプラザ」宛てに返還を要求するメールを送信、返答を待っている状態だ。
「八十年記念番組や映像祭も結構だが、視聴者との信頼関係との前に、被取材者との信頼関係を少しは考慮してもいいのでは。すぼらでは済まされないこともある(岡村氏)」
橋本氏は今なお現役で研究を続けながら、NHKの誠意ある対応を待っている。