7月14日(木)
【東京支社】今年一月、浜松市に開設された空手の士道館(本部・埼玉)の運営・指導にあたるサンパウロ市出身の日系二世、児玉哲技師範(39)。日系ブラジル人による支部開設は全国でも初めてのことで、関係者の関心を集めている。門下生には外国人も目立ち、日本語、ポルトガル語、英語を交えて指導。国際交流の場としての期待も大きい。
父は山口県出身の戦後移住者。
「四人姉弟の二番目、長男です。少年時代は喧嘩が遊びみたいなものだった。十四歳の頃、空手道場に入門するとビタリと喧嘩をやめましたが」
森山礼内呂支部長ひきいる士道館ブラジル支部で、児玉さんはめきめきと才能を開花。ブラジル士道館大会やサンパウロ・オープン大会などで優勝を重ねた。多彩で華麗なテクニックが注目された。
空手道を究めようと来日したのが二十五歳のとき。浜松市でタクシー運転手や人材派遣会社に勤務。練習を積みながら、公民館などで地元の人たちに教えていた。
「頼る人もなくブラジルから来たしたとき、自分を受け入れてくれた浜松は、もう一つの故郷ですね」
膝をけがし、試合出場が困難になったときだった。士道館の添野義二館長から「選手生活だけがすべてではい」といわれた。そのとき、「道場を開いて恩返しをしたい。来日して以来、ずっと暮らした浜松に道場をつくろう」と決意した。
四年前にまず人材派遣会社を立ち上げた。今年になって静岡県内初の支部道場を設立、夢をかなえた。
添野館長をはじめ全国各地の師範たちが児玉師範と門下生の門出を祝ってくれた。親交のあるフラジリアン柔術家による演技やキックボクシングのスパーリングも披露された。
今後は門下生の稽古のほかに小学生を対象とした空手教室などを開き、流派を超えた空手大会の開催の実現を目指す。支部には、すでに日本人(中級)選手、ネパール人(軽量)の有力選手がいる。
日本を代表する一流選手を世に送ることだけではなく、空手を通じた子供たちとの交流も大きな目標だ。
「八月から子供クラブも開き、学校訪問やセミナーも行う予定です。やる事がない子、いじめる子、いじめられる子。そんな子供たちとも空手を通し語り合い、生きることの意味を一緒に考えていきたい」。児玉師範の目は輝いていた。