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親殺しの娘、釈放される=あまりに遅い判決=「狼を野に放つ」世間は非難轟々=親戚は身柄引き取り拒否

7月8日(金)

 【エスタード・デ・サンパウロ紙三日】二〇〇二年十月にサンパウロ市内で、実の両親を恋人とその弟に殺害させ、世間を震撼させた事件で逮捕されたスザネ被告(21、当時大学生)が仮釈放で出所した。拘留期間中に判決が出ない場合、仮釈放が認められるという法の盲点をついた弁護側の主張が認められた。検察側は寝耳に水の決定で呆然としている。しかし、法に疎い世論は、事件の残虐性から狼を野に放つものだと非難が沸騰。同被告は親戚が引き取りを拒否したことから、父親の親友が身柄を引き取ってサンパウロ市近郊で過ごしている。逮捕以来、二年八カ月が経過しているにもかかわらず、公判の日取りも未定で、このため仮釈放の権利が生じたことで、改めて裁判所の審理の遅さに非難が集中している。
 二〇〇二年十月、サンパウロ市内の高級住宅で同被告の両親が撲殺死体で発見され、警察の追及で犯行を認めたため同被告は逮捕された。取調べによると、同被告は日頃の両親の厳しいしつけに不満を抱き、恋人との交際を禁止されたことで殺意を抱いた。また殺害により遺産を手中にできると考えたという。同被告は両親が就寝したのを見届けて、玄関の戸を開けて恋人とその弟を招き入れた。二人は寝室に向かい、鉄棒で両親をメッタ打ちにして死亡させた。三人とも罪を認めた。
 スザネ被告は各所の女子拘置所を転々とし、最後の十カ月間はリオ・クラロ市の拘置所で過ごした。所内では従順で治療室の事務を取り仕切っていた。
 刑法では、拘留期間が過ぎても判決で量刑が確定していなければ、仮釈放が認められている。サンパウロ州高裁はスザネ被告の弁護側の仮釈放申請を認めた。その理由として逮捕以来二年八カ月が経過しており、取調べや実況見分、証拠提出といった捜査上の手続きは全て終了しているとみなし、これ以上の拘留は認められないことを挙げた。検察側は寝耳に水の決定に仰天、逮捕後にスザネ被告のぬいぐるみ人形の中から発見されたピストルと弾薬を新証拠として提出し拘留延長を図ったが、高裁は事件と無関係だと却下し、決定を覆すには至らなかった。
 しかし、法的根拠はあるにせよ、世論は黙っていない。エスタード紙が調査した所によると、仮釈放は止むを得ないとしたのはわずか一一・一三%で、残り八〇・八七%は「絶対に許せない」や「事件の残虐性を考えると、法の解釈では済まされない」との声が多かった。また事件発生の近所の主婦はこれまでの報道記事をプリントして「人殺し」のチラシと共に付近の電柱に張りつけると意気込んでいる。
 いっぽうで法務関係者は、高裁の決定を正当とし、法の前では全人が平等との見方を示している。カルドーゾ前政権で法相を経験したレアレ・サンパウロ大学教授もその一人で、仮釈放となったが無罪になった訳ではないと前置きし、裁判所の審理の遅延が招いた結果で、思わぬ所で判事不足による裁判所の恥部を暴露したと皮肉った。
 スザネ被告の父方の親戚は引き取りを拒否した。父の弟を含む一族は遺産をめぐってスザネ被告に対し破棄を求めて訴えている。民法によると犯罪に加担した場合、遺産相続の権利は消失するという。世間ではスザネ被告に対し、「一生刑務所で過ごすのだから金は必要ないだろう」と冷やかだ。しかしいっぽうで「地獄の沙汰も金次第」で金はあった方が良いとの声もある。
 二十九日に出所しサンパウロ市近郊に移ったスザネ被告に対し、逃亡を企てるのではないかという新たな関心が沸き上がっている。